フランス、台湾、米国、オランダ…。さまざまな国から訪れた巡礼者が白装束に身を包み、道を行く。

 悩みや苦しみ、迷いと向き合う道場として、何世紀にもわたり人々を引きつけてきた四国遍路。近年は世界遺産登録に向けた機運が高まる中、外国人や若者の巡礼者も増えている。

 2020年は4年に1度のうるう年。八十八番札所・大窪寺(香川県さぬき市)から「逆打ち」で巡ることで、功徳が増すと言われる年となる。さらに今年は、空海が921(延喜21)年に醍醐天皇から「弘法大師」の大師号を贈られて1100年の節目とも重なる。

 遍路新時代へ―。令和時代に入り、最初の「貴縁」を授かる年が明けた。青い空と海、豊かな緑、歴史が待つ巡礼の旅が始まる。



絶景、グルメに寄り道

 札所を巡る遍路道周辺には絶景が楽しめる写真スポットやその地ならではの味が堪能できる飲食店が点在する。最近注目を集めるスポットを中心に紹介する。お遍路の途中にちょっと寄り道。

レストラン・ほしごえの里(さぬき市前山)

 讃岐三畜の讃岐夢豚を使った料理が楽しめる。人気メニューはオリーブ夢豚のハンバーグ定食(1100円)。



天空ミュージック(高松市屋島東町)

 毎年夏に屋島山上で開かれる天空ミュージック。瀬戸内の夕日をバックに心地よい音楽に身をゆだねる。



ゆうゆうロード(善通寺市南町)

 陸上自衛隊善通寺駐屯地の赤れんが倉庫と総本山善通寺の五重塔が見える景色は街の「顔」となっている。



藝術喫茶・清水温泉(仲多度郡多度津町本通)

 旧銭湯をアートカフェに改装した清水温泉。湯船や洗い場をそのまま生かした内装がおしゃれ。



Cafeにがり衞門(三豊市仁尾町)

 父母ケ浜近くに2018年10月にオープン。大きなクルマエビを使ったエビフライランチ(1320円)がおすすめ。



高屋神社の鳥居(観音寺市高屋町)

 稲積山山頂に立つ高屋神社の鳥居。朝夕の幻想的な風景が写真映えする「天空の鳥居」として人気に。




巡礼の魅力、世界に浸透 増える外国人遍路 10年で10倍

 菅笠(すげがさ)に金剛杖(づえ)―。おなじみの装具で四国八十八カ所霊場を歩き遍路で巡礼する外国人が増えている。

 四国経済連合会とNPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」(高松市)による調査では、2017年に歩き遍路で結願(けちがん)したお遍路さん2503人中、外国人は416人(16.6%)で、07年の44人と比べると約10倍に増えた。

 国・地域別では、フランスが66人と最も多く、次いで台湾、米国、オランダ、ドイツなどと多岐にわたり、四国遍路が世界的に広まっていることを裏付けている。日本政府観光局のパンフレットにも、四国遍路が訪日外国人にお薦めの体験型旅行として掲載されるなど、外国人の遍路ブーム到来を予感させる。


徒歩やヒッチハイクで八十八カ所を巡るフランス人のセドリックさん。歩き遍路をする外国人が増えている

徒歩やヒッチハイクで八十八カ所を巡るフランス人のセドリックさん。歩き遍路をする外国人が増えている


 「四国や香川には親切な人がたくさん」と笑顔を見せるのはフランス人のセドリックさん(45)。母国からスペインの世界遺産「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」まで歩いて訪問するなど巡礼の旅に魅了された一人だ。

 セドリックさんは初めての四国遍路を歩きやヒッチハイクで巡っている。12月中旬に訪れた85番札所・八栗寺(高松市牟礼町)では、五剣山を背景に自撮りしたり、顔見知りの参拝者との再会を楽しんでいた。

 80番札所・国分寺(高松市国分寺町)では、オーストラリア人のタイさんが熱心に手を合わせていた。徳島の1番札所から徒歩と自転車で40日ほどでたどり着いたといい、「今日は自転車なので楽ちんです」と笑顔で次の札所に向かった。


オーストラリアから巡礼に来たタイさん。歩きと自転車で約40日で国分寺に着いた

オーストラリアから巡礼に来たタイさん。歩きと自転車で約40日で国分寺に着いた


世界遺産登録目指し PR動画や歴史調査 推進協議会

 建造物や遺跡、自然など次世代に残すべき「世界遺産」。現在の登録総数は1121件に上る。四国遍路の登録を目指し、活動を続けるのが、四国4県や経済団体などでつくる「四国八十八箇所霊場と遍路道」世界遺産登録推進協議会だ。

 世界遺産登録には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する国内候補を集めた「暫定リスト」入りが必須。協議会ではリスト入りを当面の目標に、英語版のPR動画を会員制交流サイト(SNS)を通して欧米向けに配信し知名度アップを図っているほか、国の文化財指定を得るため、寺院や道標の歴史的な価値調査などに力を注ぐ。

 求められているのは世界へのアピールと文化財としての価値の高まりだ。同協議会は「お遍路の歴史や良さを世界に発信するためにも、課題を一つ一つ解決し、世界遺産登録を必ず実現したい」と意気込む。

「根香寺道」「大興寺道の一部」 歴史の道百選に

 これまでに数え切れないほどの巡礼者が行き交った四国の遍路道が2019年10月、文化庁の「歴史の道百選」に選ばれた。

 香川県内からは「根香寺道」と「大興寺道の一部」を選定。根香寺道は、81番札所白峯寺(坂出市青海町)と82番札所根香寺(高松市中山町)を結ぶ「根香寺道」の全区画4.8キロを選定。このうち約2.2キロの区画は、13年に国史跡にも指定されている。


雪景色の雲辺寺境内を歩くお遍路さん(資料)

雪景色の雲辺寺境内を歩くお遍路さん(資料)


 大興寺道については、66番札所雲辺寺(徳島県三好市)と67番札所大興寺(三豊市山本町)を結ぶ遍路道のうち、県境から3.2キロの区画が選ばれた。

 「庶民に四国遍路が広まったとされる江戸時代の風景が、ほぼそのまま残っている」と県教委生涯学習・文化財課。どちらも人の手が最小限しか入っておらず、未舗装の道が続く。脇には草木が茂り、次の札所への距離を示す「丁石」や石造りの道標が点在する。


歴史の道百選に選定された「大興寺道」

歴史の道百選に選定された「大興寺道」


 往時の姿を残す二つの道に足を運び、同じ景色を目にしながら歩みを進めた先人たちに、思いをはせてみてはどうだろう。

(四国新聞・2020/01/01掲載)


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