憧れのブルートレインを香川に―。香川県善通寺市生野町のうどん店「岸井うどん」店主の岸井正樹さん(59)夫婦が、鹿児島県で使われずに野ざらしになっている寝台特急「ブルートレイン」を香川に移設し、お遍路さんの宿としてよみがえらせる計画を進めている。


ブルートレインの前で記念写真に収まる岸井さん=鹿児島県阿久根市

ブルートレインの前で記念写真に収まる岸井さん=鹿児島県阿久根市


 岸井さんは小学生の頃から鉄道ファンで、数年前に鹿児島県阿久根市で使われないまま放置されている2両のブルートレインの存在を知った。2両はかつて大阪や京都と九州を結んだ寝台特急「なは」。うち1両は、全国で3両しか製造されていない全室2人用個室の「デュエット」で、希少価値が高いという。

 このブルートレインは高速バスの普及で乗客が減少したのを受け、2008年に運転廃止に。09年に地元のNPO法人によって宿泊施設として生まれ変わったが、14年に施設の営業が停止し、2両は雨ざらしのままで放置されていた。

 「ブルートレインは僕らの世代にとっては憧れの存在。貴重な車両を朽ち果てさせたくない」。そんな思いから、岸井さんはブルートレインを香川に移設するための活動を始めた。遍路宿泊施設が減少していることを知ったのをきかっけに、お遍路さんの宿泊施設として復活させる計画を立てたという。

 車両輸送に多額の費用がかかるため、資金を集めるのにクラウドファンディングを活用。18年12月と今年3月からの2回に分けて募ったところ、全国の鉄道愛好家らから約1400万円が集まった。この資金を使って、今秋から県内への輸送に向けて本格的に動き出す予定だ。


ブルートレインを使った遍路宿泊施設の完成予想図

ブルートレインを使った遍路宿泊施設の完成予想図


 構想では、大きなビニールハウスの中にブルートレインを格納し、車両の周りでイチジクやマンゴーを育て、宿泊者が摘み取り体験できるようにする方針。車両の中は、寝台列車で旅をしている気分を味わってもらうため、修繕してできるだけ当時のままの状態を維持する。施設や周辺の整備などにあと600万円程度必要で、マグネットで取り付けできる車両広告を導入するなどし、スポンサーを募る予定だ。

 自身も、瀬戸大橋経由で東京と高松を運行していたブルートレイン「瀬戸」をよく利用していたという岸井さん。「隣り合った乗客とのコミュニケーションが自然に生まれるのが寝台特急の魅力」と目を輝かせる。「ブルートレインを遍路宿にして、地域に恩返しできれば」。夢の実現に向けて、一歩ずつ前進している。

(四国新聞・2020/06/30掲載)


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