2020年6月のグランドオープンから1年余りが経過した四国水族館(香川県宇多津町浜一番丁)。新型コロナウイルス感染拡大の影響でオープン予定日を延期、さらに開業から7日後には休館を余儀なくされる厳しい船出となった。冬場には鳥インフルエンザへの対応にも追われた。試練の初年度となったが、スタッフの熱意と創意工夫は着実に来館者の心をつかみ、香川の新たな観光スポットとして存在感を高めている。


昨年7月、「まるでラッセンの世界」と話題になったイルカプログラム


●静かな開業
 20年3月20日のオープンが目前に迫った3月13日、同水族館は開業の延期を発表した。4月1日には四国4県在住者限定で先行オープンしたものの、新型コロナのまん延を受けた政府の緊急事態宣言発令を受け、4月8日から「期間未定」の休館に入った。

 水族館は多くの生物を飼育するため人件費や光熱費、餌代などの固定費の割合が高い。いきなり一番の収入源である入館料を失ったことから、年間パスポート「サポーターズパスポート」の発売を決定。年間パスは混雑を招く恐れがあるため、「通常は初年に売り出すことはしないが、背に腹は代えられなかった」と松沢慶将館長。一方で「購入してもらえるのか」との不安もあったという。

 2千枚限定で売り出したところ、5日間で完売、8割が県内の購入者だった。スタッフの一人は「こんなにも応援してくれている人がいるのだと勇気づけられた」と感謝を口にする。

 検温や消毒、マスク着用はもちろん、入場制限や抗ウイルスのコーティング加工を施すなど「業界の水準以上の対策」(館長)に取り組み、6月には全面オープン。7月下旬にはイルカプログラムなど当初予定していた企画を開始した。

 夕日を背景にイルカが豪快にジャンプする姿を来館者が撮影した1枚の写真が「まるでラッセンの絵画のよう」と会員制交流サイト(SNS)で話題になり、8月には月間10万人の来館者を記録。9月には開館以来30万人を突破した。


昨年9月、30万人目の来館者を歓迎するスタッフ


●不安が的中
 9月下旬にはペンギンが館内を散歩する企画がスタート。よちよちと歩く姿にほほ笑む家族連れらが多く見られ、水族館らしい光景が日常になりつつあった矢先、新たな“見えない敵”の脅威にさらされた。

 鳥インフルエンザ。韓国で感染が確認された際、担当獣医は「これはまずい」と警戒感を強め、通常12月に取り付ける防鳥ネットを前倒して準備。しかし、11月に三豊市の養鶏場で感染が確認され、東かがわ市でも発生。最悪の事態を避けるためにペンギンをバックヤードに避難させ、再展示までに5カ月を要した。

●現状「3割」
 オープンからの来館者数は政府や県の警戒レベルに応じて増減を繰り返した。20年4月から1年間の来場者は約70万人。初年度目標の120万人には届かなかったが、松沢館長は「新型コロナのクラスター(感染者集団)を出さず、生き物の健康を守れたことが第一の成果」と振り返る。

 この1年余り、四国水族館が発揮した力は「持てるポテンシャルの3割」と評価。残りの7割については「タレントぞろいのスタッフが何よりの強み。来館者と直接触れ合う企画を行うことで特別な体験を提供でき、新たな化学反応を起こせるのでは」と期待を寄せる。

 新型コロナが収束し、気軽に旅行ができるようになれば、金刀比羅宮(琴平町)やニューレオマワールド(丸亀市)、父母ケ浜(三豊市)など近隣の観光スポットと連携したPRも打ち出せる。水族館周辺のにぎわいや経済波及効果も見込まれ、宇多津町の谷川町長は「水族館は町が誇る貴重な施設。ここを拠点にしたまちづくりを今後も進めていく」と意気込む。

 さまざまな制約の中、アイデアを出し合ってピンチを乗り越えてきた。この経験を糧にして今後、来館者らにどのような時間や体験を提供していくのか。2年目の成長が期待される。

(四国新聞・2021/09/20掲載)


四国水族館

四国水族館


所在地 香川県綾歌郡宇多津町浜一番丁4
営業時間 通常 9:00~18:00
※8/30(月)~9/23(木・祝)は日の入りと共に閉館
定休日 年中無休 ※冬季にメンテナンス休館あり (2022/2/1、2)
TEL 0877-49-4590


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