愛用する漆器や陶器などに割れやひびが生じてしまった時、自分の手で直すことができたらいいのにと誰もが思ったことはあるはず。讃岐漆芸美術館(香川県高松市上福岡町)では、破損した部分を漆などで接着し金属粉を装飾して仕上げる「金継ぎ」の体験教室を毎月数回開いている。自宅で手軽にできる手法を指導していると聞き、今月中旬、技を学びにお邪魔した。


ひびや割れが入った食器、グラスを思い思いに修繕する体験者=高松市上福岡町、讃岐漆芸美術館


 同館は2014年に開館。重要無形文化財保持者(人間国宝)や県内の若手作家らの作品など約500点を収蔵し、讃岐漆器の美と技を発信している。教室は金継ぎのほかに、小皿に文様を彫り出す彫漆体験や、天然漆を使った箸の絵付け体験の二つがあり、香川の伝統工芸に親しめる取り組みを行っている。
 金継ぎ体験教室では、破損した陶器、漆器、ガラス製の食器を各自が持ち込む。教室に入ると、40~60代の参加者4人が壊れた陶器の平皿や、グラスなどを用意していた。講師を務める同市の漆芸家・漆原早奈恵さんは「多種多様な器や壊れ方があり、長年経験を積んでも一筋縄ではいかないが、大切にされてきた器に再び命を宿す喜びは修繕技法でしか味わえないのでは」と話す。
 金継ぎは破損状態によって修繕方法や使う材料が異なるため、まずは現状を見極めることが重要。割れた破片が残っている状態が「割れ」、表面に亀裂が入った状態が「ひび」、破片を紛失した状態が「欠け」と大きく三つに分類し、それぞれの状態に応じて直していく。
 江戸時代以前から伝わる「本漆(ほんうるし)金継ぎ」では、小麦粉と漆を練り合わせた「麦漆」や木の粉と漆を練り合わせた「コクソ漆」などを使い分けて破損部分を接合または充てんし、数週間かけて乾燥させ完成を目指す。体験教室では、まずは金継ぎの文化を楽しんでもらうため、ホームセンターや100円ショップなどで購入できる材料を使い、漆の代わりに2液性のエポキシ接着剤やパテを使う「簡易金継ぎ」を主に採用している。
 割れ、欠け、ひびをつなぎ合わせたら、漆と金粉などで仕上げる「粉蒔(ふんま)き」に移る。接合部分にチューブ入りの合成漆を筆で薄く塗り、真綿に金、銀粉を付けて優しくまき付ける手法だ。教室に数回通い自宅でも金継ぎに取り組む60代の女性は「やっぱりこの工程が一番楽しい。器に新しい命を吹き込んでいるよう」と顔をほころばせた。


仕上げに漆を塗り、金粉をまく。ここから2日間ほど乾燥させれば完成だ


 金色に輝く継ぎ目は「景色」と呼ばれ、破損前とは異なる器の美しさを堪能できる。壊れたらすぐ捨てるのではなく、伝統技法を生かして修理してみてはいかがだろう。
 料金は器二つで1人3千円から。問い合わせは讃岐漆芸美術館、電話087-802-2010。

(四国新聞・2023/01/28掲載)



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