香川県三豊市詫間町の沖にある粟島の宿泊施設「ル・ポール粟島」を舞台に、瀬戸内圏在住の若手芸術家たちが粟島の自然をモチーフにした作品を制作し、島内外の人たちに広く鑑賞してもらおうというアートプロジェクトが始動した。若手芸術家支援の新たなモデルにと、客室に作品を展示し「アートルーム」として宿泊料の一部を作家に還元する。作家たちは19日から20~22日にかけて島に滞在して創作。展示期間は2021年7月19日までを予定している。

 現代アートの普及に取り組む高松市の片倉恒さん(38)が代表を務める団体「瀬戸内アートコレクティブ」などが企画。地方在住の若手芸術家は大都市圏に比べ収入を得る手段が限られることから、継続的に作品の発表の機会を設けるとともに、対価が安定して得られるような仕組みのプランをル・ポール粟島に提案した。

 ル・ポール粟島は4月から穴吹エンタープライズ(高松市)が指定管理者となっており、「若手芸術家を支援するという目的に共鳴した」(平木利明支配人)として企画の実施を決めた。

 アートルームは、山口県出身で広島市立大大学院2年の土井紀子さん(23)が「海の部屋」をコンセプトにデザイン。直径15~25センチの丸い形のキャンバスに青を基調に描いた絵をツインルームの白い壁に横一列に配置した。舷窓をイメージしたといい、波浪から着想を得た抽象的な図形が連なり、部屋全体で海を連想させる。

 「海の青、ウミホタルの青と、この島にあるいろいろな青い色を表現したいと思った。青は時間の経過を遅く感じさせ、心を落ち着かせる。ゆったりとした時間をこの部屋で過ごしてもらえたら」と土井さん。


「海の部屋」をコンセプトに、アートルームに丸い形の絵を横一列に配置した土井さん=三豊市詫間町、ル・ポール粟島


 宿泊料金は7、8月に2人利用の場合、1人1泊1万2500円で、通常のツインより500円割高に設定。上乗せ分の500円を作家に還元する。今月27日分から予約が可能になる。アートルームは当面、1室のみの予定だが、稼働状況をみて増設を検討する。

 また、広島市の美術家木村翔太さん(26)は食堂に展示する50号のキャンバス2枚組みの絵画を制作。「粟島昼夜応拡幕」のタイトルで、呼吸にちなみ「横隔膜」と掛けており、海側からと上空からの粟島を表現した。細部にこだわり、地蔵やこま犬、流木などを精緻に描き込んでいて「近くに行かないと分からないが、遠くからでも楽しめる」作品を目指したという。


海側からと上空からの粟島を表現した2枚組みの絵画を制作する木村さん


 岡山県倉敷市のペインター辻孝文さん(35)は「走る自然」をコンセプトに、島内を観光用として走るアートラッピングカーの制作に挑んだ。島から見える海や山をシンボライズしてデザインし、波打つような曲線が印象的。「粟波丸」と名付け、「車体は絵の具が染み込まないので、濃すぎず薄すぎず、微妙なバランスに苦労している」と急ピッチで作り上げていた。


アートラッピングカーの制作に取り組む辻さん


 片倉さんは、地域の活性化につながる独創的なビジネスプランやアイデアを発掘する「香川ビジネス&パブリックコンペ」で、2019年度にビジネス部門のグランプリを受賞。地方で若手芸術家の作品に触れる機会を増やしたいとの思いが今回の企画に結び付いた。「地方のアーティストは生計を立てるため、多くが東京などに出て行く。地域に根差して創作活動ができる環境をつくりたい」と成果に期待を寄せている。

(四国新聞・2020/07/22掲載)


ル・ポール粟島



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