香川県小豆郡土庄町にある大正時代に建てられた築約100年の元個人病院の診療所と医師の住居が取り壊しの方針から一転、保全されることになった。診療所はレトロな雰囲気を醸し、内部には古い医療器具が残るなど往時の面影を今に伝えている。住居も長い年月を重ねて深みのあるたたずまいを見せており、所有者は「存在が忘れ去られないよう、現状を多くの人たちに見てもらいたい」と、今月中に公開することにしている。


昔ながらのベッドや医療器具などが残る旧遠藤医院の診察室=香川県小豆郡土庄町大部

昔ながらのベッドや医療器具などが残る旧遠藤医院の診察室=香川県小豆郡土庄町大部


 病院は、江戸初期から11代続いた土庄町大部の遠藤医院。11代目の遠藤達(とおる)さんが1987年に亡くなるまで約400年にわたって地域医療を支えていた。

 達さんのおい、佐伯典男(つねお)さん(72)=香川県小豆郡小豆島町苗羽=によると、遠藤家の初代隆秀は豊臣家に仕えた医師。1615年の大坂夏の陣で敗走して翌年に小豆島に渡り、大部で医業を始めたという。代々、住民の健康に尽力し、中でも8代秀庵は名医として知られ、書画もたしなむ多才ぶりだったとされる。また、10代三千二は大正時代に大部村の村長も務めた。


遠藤家の住居前で写真に納まる大森さん夫妻(右側)と佐伯さん夫妻

遠藤家の住居前で写真に納まる大森さん夫妻(右側)と佐伯さん夫妻


 遠藤医院の看板を下ろした建物は、相続人が土庄町への寄贈を申し出たがまとまらず、昨年12月に隣で醤油(しょうゆ)醸造所「ヤマトイチ」を妻と共に営む大森勝輔さん(72)が駐車場用地として購入。取り壊しを建築家に相談したところ、「立派な建物なので壊すのはもったいない」と助言され、屋根や塀などを補修して残すことにした。今月中に補修の合間を縫って診療所、住居とも一般公開するという。

 診療所には、大正期の受付や待合室がそのまま残っており、玄関には往診時に使ったという古い人力車もある。また、診察室では昔ながらのベッドや代々使ってきた医療器具などが確認できる。

 住居は庄屋邸の形態をとどめた重層入母屋造りで、江戸後期のものと思われる医学書が残るなど見どころは多い。公開に向け、遠藤家の家系図や、秀庵(雅号・碧岳)が描いた山水画の軸物なども展示するという。

 大森さんは「歴史を感じさせる建物と貴重な品々を見て、病院の存在を記憶にとどめてもらえれば。未使用の食器や装飾品もあるので、訪れた人にプレゼントしたい」と話している。問い合わせは大森さん、電話090-4500-7120。

(四国新聞・2021/02/02掲載)


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