香川県観音寺市大野原町の静かな山あいにある法泉寺。大きなイチョウとモミジが色づく紅葉で有名なスポットだが、今の時季には緑豊かな風景が存分に楽しめる。コロナ禍で落ち着かない日常を送っているとあって、自然に囲まれた境内を訪ね久しぶりにゆったりとした時間の流れを味わった。


緑に囲まれた法泉寺。秋には色鮮やかな紅葉が広がる


 法泉寺は浄土真宗の寺。親鸞聖人の教えを受けた鎌倉の武士・藤田美多左衛門常清(びたざえもんつねきよ)が雲辺寺の観音堂で7日間祈願したところ、観音菩薩(ぼさつ)が童子の姿で現れ、谷間の草庵へ案内。常清はここで衆生の教化につとめ、寺の基礎を築いたというのが始まりだそうで、庵のあった所は現在の本堂にあたる。

 山門をくぐると、左手にお釈迦(しゃか)様ゆかりの木として知られる県の保存木・菩提樹(ぼだいじゅ)が見え、山門の左塀側には市の指定文化財・ラカンマキも植えられている。2本は共に樹齢約400年と推定され、その立派な樹形に息をのんだ。

 樹齢100~150年ほどの十数本を含む約30本のモミジも出迎えてくれる。法泉寺は温度差の激しい山間部に位置するためか、秋の紅葉が見事。9月初めのこの日はまだ青々としていたが、葉が鮮やかな赤に染まる11月中旬になると県内外から人が訪れ、コロナ禍以前は「もみじ祭り」の日にはひときわにぎわいを見せていた。敷地内には六角堂の納骨堂も建設中。藤田誠之住職によると六角堂の納骨堂は県内でも数少なく、花や鳥を描いた美しい天井絵が特徴的という。

 法泉寺を出た後は、少し車を走らせ国の重要文化財・豊稔池堰堤(えんてい)へ。車を降りると早速、竣工(しゅんこう)から90年を超える歴史あるダムが目に入った。ここは全国に二つしかない「マルチプルアーチ式」で、五つのアーチを六つの「バットレス」と呼ばれる壁が支える構造。アーチは手前に25度ほど傾き、水が出ていなければ真下から撮影するのも面白そう。放流は人工的に操作できる「樋(ひ)」と、一定量に達すると自然に流れ出る「余水吐(よすいばき)」の2種を活用し、余水吐があることで貯水量を一定に保つ仕組みとなっている。


90年を超える歴史のある豊稔池堰堤。レンガ調の橋とも相性がよい


 豊稔池ダムファン倶楽部のリーダー徳善久人さんの案内で、堰堤左手の階段へ。上には築造に尽力した加地茂治郎や佐野藤次郎、名付け親の三土忠造らの名が刻まれた豊稔池碑が立つ。風がない時には水面に景色が映るなど、下から見上げる堰堤とはひと味違った絶景が味わえるお勧めスポットだ。

 階段途中の「旧火薬庫跡」や「旧土砂吐樋門」も一見の価値あり。「手洗いも昨年改修されたので、女性も安心して利用してもらえるはず」と徳善さん。駐車場横のレンガ調の橋から撮ったり、階段の途中からアジサイ越しの堰堤を収めたり―。いろいろな風景を堪能できる魅力あふれる豊稔池。一度は見ておきたい香川が誇る景勝地の一つだ。

(四国新聞・2021/09/11掲載)

法泉寺


豊稔池ダム



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