伊吹島民俗資料館 観音寺市伊吹町 人々の暮らしリアルに 明治時代の教科書も保存
イリコ漁で有名な伊吹島。近年は旅するチョウ「アサギマダラ」の飛来でも知られるようになった。そんな島の歴史が染み込んだ漁具や記録物などを収蔵するのが「伊吹島民俗資料館」(香川県観音寺市伊吹町)だ。主要産業である漁業の変遷をはじめ、激動の時代を生きた島の人々の暮らしぶりがリアルに感じられる空間を想像しながら、伊吹の“素顔”を探りに向かった。
伊吹島へは、観音寺港から定期船で約25分。船を下りてしばらく坂を上ると、木造の建物が見えてきた。目的地の資料館だ。
資料館は、島の民俗遺産を後世に受け継ぎ、これからの時代を生きるヒントにしてもらおうと、1992年に開館。島の小学校で長年教べんをとっていた教員が収集した生活用具などを中心に、江戸時代のものも多く、貴重な史料の数々がそろう。旧伊吹幼稚園舎を活用した建物は、教室や廊下にかつての名残があり、一歩足を踏み入れるとどこか懐かしい感じがした。
屋内には、漁業や民俗行事などにまつわる文書や写真、用具がずらりと並ぶ。廊下にあるのは、大型の漁具や農機具。伊吹島といえばイリコが有名だが、実はタイの漁場としても知られる。島の周囲には緩やかな潮流が流れ込み、タイの産卵場所に。1844年には「鯛しばり網漁」という漁法が伝わり、約100年にわたって伊吹島の漁業を支え続けていた。漁業関連の史料を集めた部屋では、船団を指揮するための道具「ザイ」や船上で炊いたごはんを入れるおひつ、網針などが見られる。
壁には島に伝わるタイの正月飾り「懸(かけ)の魚(いお)」も展示。かつては干したタイをしめ縄に向かい合わせに付けた飾りを作り、大漁祈願として床の間につるしていたというが、今では作り方を知る人は島に1人だけとなった。繊細な手仕事は必見だ。
館内には農業関連の資料をまとめた一角も。伊吹島では、昔から麦と芋が主に栽培されており、戦前ごろまで脱穀作業に用いていた「唐竿」などを展示している。
明治時代に使用されていた教科書、イリコ漁の流れや網元が分かる手作りの資料、若い女性が社会勉強のために40日間の四国遍路の旅に出る「娘遍路」で使われていた金剛づえなどもある。ここでしか出合えない珍しい品々に想像力をかき立てられ、思わず時間を忘れて長居してしまいそうになった。
所蔵品は全部で1520点余り。島の生活は苦労も多かったようだが、都会では味わえない自然の良さが不便に勝る魅力のように思えた。
(四国新聞・2022/02/26掲載)
伊吹島民俗資料館
所在地 | 香川県観音寺市伊吹町479−1 |
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営業時間 | 9:00~17:00 |
定休日 | 日曜日 |
入館料 | 無料 |
TEL | 0875-29-2111(観音寺市役所伊吹支所) |