塩飽大工が最後に作った家とされる「吉田邸」(丸亀市本島町)。国の重要伝統的建造物群保存地区である笠島の古い町並みの中にたたずむ邸宅は、細部に塩飽大工の技が垣間見られるぜいたくな造り。本島のかつての繁栄をしのぶことができる。

 本島泊港から自転車で約10分。「マッチョ通り」の角に吉田邸はある。およそ築100年で、5年前から公開している。

 持ち主で、本島汽船社長の吉田稔さん(65)と妻の登志子さん(63)が出迎えてくれた。招かれて一歩入り驚いたのは、室内の明るさ。ガラスをふんだんに使っているので、自然光がたっぷりと入る。


室内は日本家屋なのに開放感たっぷり。庭の松の木は写真映えする立ち姿=丸亀市本島町、吉田邸

室内は日本家屋なのに開放感たっぷり。庭の松の木は写真映えする立ち姿=丸亀市本島町、吉田邸


 庭に目をやると、竜が天に昇るような形をした松の木が。座敷に座って庭を眺めると、さながら1枚の絵のよう。これも室内が開放感にあふれているからだろう。また、欄間には刀のつばがはめ込まれていて、光に透けるととても美しい。

 12メートルもある節のない杉の丸太や大きな岩を使ったつくばいにも驚かされた。当時の本島がいかに栄えていて、豊かな土地だったか容易に想像できる。

 床の間には伊藤若冲(1716~1800年)の墨画が飾られている。海運業を営んでいた稔さんの父が材木商から運賃の代わりに譲り受けたもので、家を一般公開するにあたって蔵から探し出したという。登志子さんは当初から若冲の作品ではないかと推測していたそうで、2017年に真作だと判明した後もガラス1枚隔てず床の間に飾られている。


伊藤若冲の墨画を飾った床の間。鶏や菊の細かい質感が間近で見られる=丸亀市本島町、吉田邸

伊藤若冲の墨画を飾った床の間。鶏や菊の細かい質感が間近で見られる=丸亀市本島町、吉田邸


 双幅の掛け軸の一つには雌鳥(めんどり)がひなを育てている様子、もう一つには雄鳥(おんどり)がその姿を見守っているように描かれている。「羽根がふわふわしていて、動きが感じられるでしょう」と登志子さん。墨だけで描いた絵なのに、鶏は生き生きとしている。


染付の陶器でできた男性用の便器=丸亀市本島町、吉田邸

染付の陶器でできた男性用の便器=丸亀市本島町、吉田邸


 また、ぜひ見てほしいのがトイレ。有田焼と思われる染付の陶磁器でできていて、ボタンの花の柄が美しく、トイレとは思えないぜいたくさだ。

 入場料は大人300円ほか。見学の予約は吉田さん〈090(8692)1827〉。

(四国新聞・2019/03/05掲載)

吉田邸


所在地 香川県丸亀市本島町笠島314
TEL 090-8692-1827


関連情報