香川県三豊市の仁尾町を囲むように連なる七宝山系の志保(しお)山(標高426メートル)。同町にあった塩田で使う木を伐採していたことから「塩山」と書かれていた漢字が変化したといわれている。山には一年を通じて冷たい風が吹き出す「風穴」があると聞き、興味津々の面持ちで5月中旬に登山を楽しんだ。

 県道220号の吉津峠を仁尾町側に200メートル下ると風穴登山口の駐車場がある。お手製の木の看板を目印に早速スタート。登山道は古里を愛する同町の真鍋正和さん(73)が中心になり2013年から整備。9コースある登山道の中でも風穴登山口が急勾配が少なく、最も登りやすいという。1時間半あれば頂上を目指せる。

 運が良いとキビタキやサンコウチョウ、オオルリなどの珍しい野鳥が麓で見られるという。かわいらしいさえずりを聞きながらわずか10分ほどで風穴に着いた。風穴とは、山の内部で生じる温度差や風圧で風が通り抜ける洞穴。堆積した安山岩の隙間を流れる空気が、地下水に冷やされて人工の石垣の隙間から吹き出している。県内にはここと高鉢山(綾川町)の2カ所にしかない。


1年中冷たい風が吹き出す「風穴」。一帯の温度は10度だった=香川県三豊市仁尾町

1年中冷たい風が吹き出す「風穴」。一帯の温度は10度だった=香川県三豊市仁尾町


 木陰にある風穴の入り口に近づくだけで冷気を感じる。この日の気温は27度だったが、広さ6畳ほどの風穴一帯は驚きの10度。こけむした石垣から吹く冷たい風が汗ばんだ体を心地よく癒やしてくれた。

 風穴は、明治時代から蚕の卵の保管庫として利用され“天然の冷蔵庫”と呼ばれていたが、土砂に埋もれて所在が分からなくなっていたという。10年前に真鍋さんが探し当て、有志らと手作業で整備。今では自然の中で涼を感じることができるスポットとして多くの人から愛されている。

 風穴で次に進む気力を蓄え、さらに1時間ほどでようやく山の東側、270度の眺望を楽しむことができる「東峰」に着いた。かつては雑木で覆われていた土地を、登山客に景色を楽しんでもらおうと真鍋さんが切り開いた。特に高瀬町方面は綾歌三山から屋島北嶺まで眺めることができ、遠く讃岐山脈越しの剣山系の美しさに見とれてしまう。


瀬戸内海や仁尾の美しい町並みが一望できる山頂

瀬戸内海や仁尾の美しい町並みが一望できる山頂


 ここまで来たらあと少し。地元住民の有志が作ったベンチで一息ついた後、一気に歩を進めて山頂に到着。仁尾の町並みが眼下に広がり、瀬戸内海に浮かぶ大蔦島・小蔦島が印象的だ。潮の引いた父母ケ浜を人が歩く姿も手に取るように見え、爽やかな風を受けながらじっくりと眺めた。

 条件が良ければしまなみ海道も望めるという。豊かな自然と圧巻の眺望、そして夏に体感してほしい風穴。これからの季節にもってこいの山だ。

(四国新聞・2022/06/10掲載)



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