「映え」で一躍、全国から注目を集めるようになった香川県三豊市仁尾町の父母ケ浜。そこにひけを取らない夕日の名所が、東かがわ市にある―。そう聞いて、半信半疑で出かけた先には、波に揺られながら見る絶景があった。


「サンセットツアー」(1時間30分、写真撮影付き1人6000円)での一幕

「サンセットツアー」(1時間30分、写真撮影付き1人6000円)での一幕


 県道の小さな角を曲がり、坂を下りた突き当たりに、山田海岸はあった。同市馬篠。知る人ぞ知る存在だが、すっきりと清掃が行き届いた白い砂浜と、澄んだ青い水。空前のキャンプブームで、金曜の夜から日曜の午後まで続けてテントを張るファンもいるらしい。
 夕方、徐々に人影も減る頃、浜のすぐ横にある「ビーチハウスYAMADA」から大きな板を引っ張り出す姿があった。店主の西村昌浩さんは、この海岸と夕日に魅せられ、夏場だけ大阪から来て、ここを切り盛りしていると言う。
 板は「SUP(サップ)ボード」といい、スタンドアップパドルボードのこと。波のない日に、立ったままで漕いで進むため、初心者でも問題なく、200キロの重量まで乗れるので親子はもちろん、大人2人で楽しむこともできる(初めてレンタルする場合は講習あり)。西村さんがインストラクターを務め、すぐ目の前に見える丸亀島や、珍しい岩脈「柱状節理」で有名な絹島まで行くツアーが人気だ。


「絹島ツアー」では珍しい「柱状節理」がすぐそばで見られる

「絹島ツアー」では珍しい「柱状節理」がすぐそばで見られる


 ぬれてもいい服装にライフジャケットを着けていざ挑戦。サーフボードと違い、板の幅が広いので安定感抜群で、立つのに困ることもない。この日はまったく風もなく、絶好のSUP日和。まっすぐこぎ出すのに最初だけこつがいるが、慣れるとすいすい進む。船べりがない分、ボートよりさらに大海原に浮かんでいるという開放感があり、少し進んだだけでずいぶん岸から離れたような感じがする。
 こぐのをやめて、海に足を付けて板の上に寝転んでみると、耳のすぐ横で波の音がする。だんだんと空が藍色に近づき、日暮れが近づいているのが分かる。同じツアーの人たちものんびりと過ごしているようだ。
 午後6時半すぎ、絹島の向こうに大きな夕日がかかった。山田海岸は入り江になっており、防波堤もあるので波が静か。一瞬、つやつやした鏡のようにないだ海面に夕日が映り、オレンジ色に輝いた。まさしく、魔法のように美しい「マジックアワー」。なるほど、「父母ケ浜にも負けない」と地元の人がいう理由が分かった。
 「本当にきれいでしょう。大阪、神戸からファンが来るのに、地元・香川の人が知らないなんてもったいない」と西村さん。幻想的な夕日は砂浜からももちろん満喫できるので、過ごし方はそれぞれ。海水浴やバーベキューに並ぶ、海辺の楽しみ方をまた一つ知ってしまった。

(四国新聞・2022/07/23掲載)



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