香川県内の演劇愛好家でつくる劇団マグダレーナ(主宰・大西恵さん)が28日、高松市西宝町のミューズホールでミュージカル「恩讐(おんしゅう)の彼方に」を上演する。今回は菊池寛の代表作を脚色し、戦災孤児をテーマにした作品に仕立てた。物語を紡ぐのは演劇を学ぶ子どもたち。脚色・演出を手がけた大西さん(83)は「世界に戦争ムードが漂う今。未来を担う子どもたちにこそ戦争の悲惨さを語り継いでほしい」と狙いを話す。


熱の入った練習を繰り広げる出演者=高松市内


 舞台は終戦直後の1946年の高松。空襲で家族を亡くし、浮浪児と呼ばれた孤児たちが、靴磨きや盗みにも手を染めながら暮らしていた。孤児たちの周りには特攻帰りの少年や両脚を無くした軍人らが現れる。そんな中、高松空襲のために飛来した爆撃機B29の元搭乗員は、戦後の苦しむ人々を救うため僧侶となっていた―という物語。
 菊池寛作品を舞台化するシリーズの5回目。寛の「恩讐の彼方に」は、罪を重ね、民衆のためにトンネルを掘る主人公への報復と許しが描かれている。今回のミュージカルでは、進駐軍に対して復讐心を抱く孤児たちと、僧侶となった元搭乗員ら戦争に関わった大人との関係が見どころとなる。
 大西さんは舞台制作を前に東京の戦災孤児に関する書籍を読み込んだ。そこに記されていたのは大人が起こした戦争によって寒さや飢えに苦しむ子どもたちの姿。高松空襲についても調べる中で「犠牲者の半数が未成年だと知ったことも制作の動機となった」と振り返る。
 劇中では出演者が「戦争に対する大人の責任」を訴えるせりふを何度も語り、激しいロック音楽に乗せて観客に投げかける。演じるのはマグダレーナが指導する「子どものための演劇教室」の小学4年~高校3年の26人が中心。ウクライナ情勢などについて各自で学んだ上で舞台に臨む。
 過去に何度も戦争を取り上げてきた大西さん。「これまでの児童劇で描かれなかった戦争の暗部を表現した。今の子どもたちの叫びを受け止め、平和を考えるきっかけにしてほしい」と話している。
 アーツフェスタたかまつ2022の主催事業。午後2時と同6時開演。入場料は一般2500円(前売り2千円)ほか。問い合わせは劇団マグダレーナ、電話090-7621-9503。

(四国新聞・2022/08/22掲載)



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