本島

無二の視点から ●藤原史江さん 「その石が見た風景」描く


無二の視点から

無二の視点から


 古くから日本の建築文化を支えた備讃諸島の石をチョークのように用い、「その石の視点から見た風景」を、黒板に描く要領で、サンドペーパーに描く。石の硬さや結晶の入り方によって線の太さや濃さが変わり、文字通り石が身を粉にして生み出した唯一無二の作品になる。
 稼働中の丁場(採石場)も見たくて、青木石の産地である広島に見学に行き、大画面に作業中の人や機械も含めてパノラマ風に描いた。90年間以上操業している丁場だが、作業は日々進むので同じ風景は二つとなく、まさに一期一会だ。本島では、加工跡のある破片が道端に落ちているなど、石の島ならではの発見もあった。
 また、丸亀城の崩れた石垣の破片を特別にいただき、その石が見ていたであろう天守の風景も描いた。描いているうちに手の中で崩れていく感覚に、石垣の経てきた時間や、自然の厳しさも感じられた。
 島で作業を続けていると、船中で話しかけられたり、子どもたちの作品展示に誘われたりと島の人に受け入れてもらっている。笠島地区の伝統的建物の中で作品を見て、いろいろな発想を持ってほしい。


藤原史江さん

藤原史江さん


SETOUCHI STONE LAB ●川島大幸さん 「価値」のはかなさ感じて


SETOUCHI STONE LAB

SETOUCHI STONE LAB


展示場所は本島の笠島まち並保存地区内にある伝統的家屋。一歩中に入ると、重さ1トン近い巨石が鎮座している。広島の青木石の丁場へ出向き、矢(くさび)を用いる伝統的手法と、最新の工具の両方を用いて割った。本来は輸送時に石の下に挟む「盤木(ばんぎ)」も、同じ石から削りだして通常の形に仕上げている。石が作品になる最後の工程を表現するもので、この石は技術の歴史や、時間の痕跡をすべて刻んでいる。
 また同じ丁場からたくさんの石塊を集め、重さを1千分の1桁まで計測。半端な数字の物は庭に、1・000キロなどちょうどの数字の物はデジタルスケールと共に屋内で展示する。屋内の石は、屋外の石を防犯カメラのモニターで監視している設定。だが展示が終わるとすべての石は埋め立てに使われる。人によって定義された価値と、そのはかなさを、鑑賞者も1・000キロの石になって感じてもらう趣向だ。
 3Dデータに変換した石を屋内のモニターで写し出したり、3Dプリンタで出力した144分の1の丁場の模型に、広島で採集したさまざまな音を奏でさせたりする仕掛けも。モニターを設置した場所との関連も感じ取ってもらいたい。


川島大幸さん

川島大幸さん


丸亀市との連携 マルタスでも作品展示


藤原さんがサンドペーパーに描くのと同じ要領で制作中の黒板アート。ほかに本島で描いた小品や、川島さんの作品もサテライト展示する=丸亀市大手町の市民交流活動センター「マルタス」

藤原さんがサンドペーパーに描くのと同じ要領で制作中の黒板アート。ほかに本島で描いた小品や、川島さんの作品もサテライト展示する=丸亀市大手町の市民交流活動センター「マルタス」


 地域の文化を一つの物語にまとめて情報発信し、地域振興につなげる文化庁の「日本遺産」。丸亀市は2019年、大坂城の石垣にも使用された備讃諸島の石と、石材を運んだ海運などのテーマで、土庄町と小豆島町、岡山県笠岡市と共に認定を受けた。本島と広島には計12件の構成文化財が点在する。
 今回、「石の島」をテーマに本島で作品を制作するのは、石を使ったアートを展開している藤原史江さん(愛知県)と川島大幸さん(静岡県)。笠島集落内の伝統的建物を舞台に、本島や広島の石を素材にした作品を制作、展示を行う。
 また島内で制作した作品の一部は、丸亀市大手町の市民交流活動センター「マルタス」でも展示。金毘羅街道の出発点である太助灯籠、石垣の総高日本一を誇る丸亀城など、市内観光への周遊も促している。

伊吹島

ものがみる夢 ●アレクサンドラ・コヴァレヴァさん&佐藤敬さん/KASA 道具が織りなす2つの「庭」


ものがみる夢

ものがみる夢


 伊吹島には美しい風景が広がっている。島内を散策して特に印象的だったのは、島のお母さんたちが空き地を手入れしてきれいな庭のように整備していること。そんな「伊吹島の庭」が今回のテーマで、島で眠っていた道具を使って二つの作品を展開する。舞台は丘の上にある旧伊吹小学校だ。
 一つは「海の庭」。漁業が生活に密着している住民にとっては海も仕事場であり庭のようなもの。島で譲ってもらった青や白色の漁網を教室に何層にも張り巡らせ、まるで海のように見える空間作品に仕上げた。窓からのぞく空と海、そして作品が一体化して見え、鑑賞する時間帯によって異なる表情を見せるだろう。
 もう一つは「島の庭」。伊吹島は水不足に苦労してきた島で、水がめやタライ、イリコを湯がく釜といった水にまつわる道具が数多く眠っている。今は使われなくなった約50個の道具を教室に配置し、かつての小学校で再び命を宿すようなイメージに仕立てた。歴史を物語る道具を通して島にあった時間に思いをはせてほしい。
 どちらも伊吹島と強く結びついた作品になったので、鑑賞後に島内を散策すると新たな魅力に気付いてもらえるだろう。


アレクサンドラ・コヴァレヴァさん&佐藤敬さん/KASA

アレクサンドラ・コヴァレヴァさん&佐藤敬さん/KASA


つながる海 ●ゲゲルボヨ(インドネシア) 日本と故国の伝統融合 


つながる海

つながる海


 日本は故郷インドネシアと同じ島国で、共通する文化が多い。その日本で初めて私たちの作品を紹介できてうれしい。特に伊吹島は古い建物が現存する温かみのある場所。作品を展示するのも約100年前に建てられた昔の郵便局で、まるでタイムカプセルのようだ。
 作品のコンセプトはタイトルにもある「つながる海」。例えば日本とインドネシアにはそれぞれ国境があるが、島国であるため海でつながっていると言える。そこで、アート作品の中で両国の伝統文化を融合させることで、つながりの感覚を表現しようと考えた。
 中でも水牛の皮を天井からつるしたインスタレーションには、日本の七福神の「えびすさん」とインドネシアの神を一緒に描き、人々が神を祭る両国共通の文化を表現している。他にもインドネシアの船や両国の象徴的な山、伊吹島のイリコをあしらうなど面白い描写が混在しているので、さまざまな発見を楽しんでほしい。
 また、島や郵便局からインスピレーションを受け、母国の染色技法で作った「のれん」も数多く設置している。異なる文化が融合した空間に浸り、何かを感じ取ってもらえたらうれしい。


ゲゲルボヨ(インドネシア)

ゲゲルボヨ(インドネシア)


島の食文化堪能しよう 「うららの伊吹島弁当」販売


うららの伊吹島弁当

うららの伊吹島弁当


 伊吹島では地元の主婦らが中心となり、特産のイリコや地元の野菜を使った「うららの伊吹島弁当」(1200円)を販売する。
 島の家庭料理「いりこ飯」や釜揚げしたイリコの天ぷら、アジの南蛮漬けなど海の幸がたっぷり。地元で採れたサツマイモの天ぷらや、島で昔から食べられている「うどん粉餅」も入っており、伊吹の食文化を堪能することができる。旧伊吹小学校で売り出す。
 弁当作りに携わる三好隆子さん(75)は「『うらら』は『私たち』という意味の伊吹の方言。島の知恵や工夫が詰まった料理を味わってほしい」と話している。

観音寺市との連携 「よるしるべ2022」 夜の街中、幻想的に


「よるしるべ」のイメージ

「よるしるべ」のイメージ


 観音寺市の中心市街地では、10月28~30日と11月3~5日の6日間の夜、映像や明かりを利用した作品を道しるべに、古い街並みなどを巡る「よるしるべ2022」(同実行委主催)が開かれる。本土側の周遊促進を図る瀬戸芸の重点テーマの一環として実施する。
 会場はハイスタッフホールをはじめ、専念寺や白山神社、古い街並みが残る路地裏など。アーティストが手がけた映像を建物に投影したり、陶芸の明かり作品を各所に展示したりして街中を幻想的に彩る。今回は初の試みとして、事前に行ったワークショップの作品も公開する予定。
 実行委は「ぜひ市内にも足を延ばし、観音寺の街並みの魅力に触れてほしい」としている。
 開催時間は各日とも午後6~9時。10月29、30日と11月4、5日はガイドツアーを実施予定。問い合わせは実行委、電話0875(24)2150。

高見島

FLOW ●ケンデル・ギールさん(南アフリカ) 焼杉に刻む、自然との調和


FLOW

FLOW


 2000年の「大地の芸術祭」(新潟県)に参加したことをきっかけに、瀬戸芸でも声をかけてもらった。日常の生活とアートが融合した「スタジオジブリ」のような世界観の高見島で、新たな作品を展開できることに感激している。
 高台に設置した彫刻作品「FLOW」は、高さ3メートル、横6メートルの一枚の壁に窓を二つ設けており、そこから瀬戸内海の水平線を一望できる。壁には杉の板の表面を焼いて炭化させた「焼杉板」と鏡を使用し、島の豊かな緑を映し出す一方で、人間の自然に対する暴力が異常気象の激化につながりかねないという「警告」を表した。
 焼杉板を使用したのは、自然の中から派生し日本の伝統的な技術が駆使されているから。作品を展示する地域の文化に合わせた素材を使うことで、作り手にも見る側にも新たな気付きが生まれたらと考えている。
 私たちは本来、自然と調和し、水平線に向かって流れるように生きていかなければならない。その思いを表現するため、壁には「流れる、たゆまず進む」といった意味合いを持つFLOWの文字を溶け込ませている。想像力を働かせながら見つけてほしい。


ケンデル・ギールさん(南アフリカ)©LydieNesvadba small

ケンデル・ギールさん(南アフリカ)©LydieNesvadba small


高松港周辺(屋島山上)

屋島での夜の夢 ●保科豊巳さん 巨大パノラマ、「諸行無常」表現


屋島での夜の夢

屋島での夜の夢


 「屋島での夜の夢」は、明治期に盛んに作られた巨大絵巻とジオラマを一体化させて迫力ある情景を楽しませる興業「パノラマ館」を再現した作品。平家物語の屋島の戦いを題材にした架空の合戦を、縦約5メートル、横約40メートルにも及ぶ湾曲したキャンバスに油絵の古典技法を使って写実的に描いた。
 パノラマ館はかつて東京の上野や浅草のほか、琴平町にもあったという記録が残っているが現存しておらず、この作品が日本では唯一。制作に当たっては世界的に有名な施設があるポーランドを訪ね、それを参考にした。
 作品のテーマは「諸行無常」。右から左に向かって1日の時間の経過を表現している。朝は合戦の始まり、昼は戦場に襲来した嵐、夜は両軍が壊滅した状態を描いた。完成までに要した期間は4年。千葉県内の体育館で下絵を書き、20のパーツに分けて今年5月に屋島へ搬入した。
 絵に奥行きを持たせるため、キャンバスの天地は真ん中が飛び出た特殊な形をしている。各パーツがずれないようつなぎ合わせるのに苦労した。遠近法を駆使して絵とジオラマの境を違和感がないようにしているのがこだわりだ。絵の中にはたくさんの物語を詰め込んでいる。来場者の皆さんにはその隠されたメッセージを感じ、楽しんでもらいたい。


保科豊巳さん

保科豊巳さん


粟島

スティルライフ ●マッシモ・バルトリーニさん(イタリア) 「創造」と「再生」象徴する花瓶 


スティルライフ

スティルライフ


 瀬戸芸への参加は今回が初めて。新潟の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」には1度参加しているが、風景はまったく違うにしても雰囲気や作品の配置、空間への介入という点では似通っている。瀬戸芸はある種の芸術を他の方法では到達できないような場所に持ち込むもの。真の挑戦は、このような美しい場所で価値あるものを創り出すことだ。
 「スティルライフ」は幅約5メートル、長さ約7メートル、深さ約1メートルの人工池を掘り、その中央にハスの花を描いた花瓶を浮かべた作品。花瓶はイタリアの画家で陶芸家としても知られるガリレオ・チーニ(1873~1956年)の作品を模している。ハスの花は「創造」や「再生」の象徴。花瓶の中は空洞になっていて、そこで何かが生まれるようなイメージを抱くだろう。
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で来日がかなわず、パソコンを使って現地スタッフに指示を送りながらのリモート制作を余儀なくされた。本当は粟島の空気を吸って、新しい感動を味わいたかった。
 作品を楽しみにしている皆さんにはこう伝えたい。「Look and feel(見て感じて)」


マッシモ・バルトリーニさん(イタリア)

マッシモ・バルトリーニさん(イタリア)




(四国新聞・2022/09/29掲載)


特集 瀬戸内国際芸術祭


瀬戸内国際芸術祭2022


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