瀬戸内海の島々などを舞台にした現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2022」(同実行委主催)の秋会期が29日、開幕した。ようやく過ごしやすい季節を迎えたとあって、初日から芸術ファンらが各島に渡るなどしてお目当ての作品鑑賞を楽しんだ。


ケンデル・ギールさん(南アフリカ)の彫刻作品「FLOW」を鑑賞しながら地元食材を使った料理を楽しむ来場者=仲多度郡多度津町の高見島

ケンデル・ギールさん(南アフリカ)の彫刻作品「FLOW」を鑑賞しながら地元食材を使った料理を楽しむ来場者=仲多度郡多度津町の高見島


 秋会期は11月6日まで開催。春、夏会期の会場に本島(丸亀市)、高見島(多度津町)、粟島(三豊市)、伊吹島(観音寺市)の中西讃4島を加えた11の島と高松・宇野両港周辺で新作22点を含む204点を公開する。
 初日は曇りがちだったものの時折晴れ間も見え、幕開けを心待ちにしていた芸術ファンや若者のグループらが個性豊かな現代アートが展示された島々を訪問。高見島には古民家を改修した屋外レストラン「海のテラス」の敷地内に、幾何学模様にあしらった「焼杉板」と鏡を組み合わせたケンデル・ギールさん(南アフリカ)の彫刻作品「FLOW」が新たにお目見え。瀬戸内海のブルーを背景に生かした作品を眺めながら、来場者は地元で取れたタイや県産地鶏を使った料理に舌鼓を打っていた。
 高松市の屋島山上交流拠点施設「やしまーる」では、縦約5メートル、横約40メートルにも及ぶ保科豊巳さんのパノラマ画「屋島での夜の夢」が一般公開された。源平合戦から着想を得た架空の合戦を描いた大迫力の作品を前に、東かがわ市三本松の尺八奏者、西森敬二さん(66)は「絵とジオラマの境目が分からなくなるような仕掛けが素晴らしく、アーティストの想像力に感服した」と目を見張っていた。

芸術の季節、島々染め 食も堪能、笑顔広がる 瀬戸芸秋会期開幕

 瀬戸内国際芸術祭2022秋会期が開幕した29日、新たに会場に加わった伊吹島(観音寺市)など中西讃の4島と本土側の港周辺にはアートファンらが次々と訪れた。来場者は島々の自然や趣ある町並みに溶け込んだ作品をじっくりと鑑賞。島では住民と笑顔を交わし、地域色豊かな食も堪能した。平日とあって目立った混雑は見られなかったものの、アートに彩られた島などに笑顔が広がった。


大漁旗や手作りのイラストを掲げて来島者を歓迎する小中学生ら=観音寺市伊吹町、真浦港

大漁旗や手作りのイラストを掲げて来島者を歓迎する小中学生ら=観音寺市伊吹町、真浦港


 伊吹島の真浦港では午前10時ごろ、大漁旗を掲げた漁船の先導で観音寺港からの連絡船が到着。地元の小中学生や園児、住民ら約40人が手作りのうちわや大漁旗を振って来島者を出迎えた。伊吹中3年の松本菜々花さん(15)は「人が温かく自然豊かな島の雰囲気も感じてもらえたら」と笑顔を見せた。地元の主婦らが手がけた「いりこ飯」など島の伝統料理を詰め込んだ弁当も人気を集め、正午までに完売した。
 メイン会場となる島と本土側の周遊促進を重点テーマに掲げた今回の芸術祭。多度津町では高見島だけでなく、江戸から明治期の町家や蔵屋敷が点在する同町本通地区で作品を展開している。桃陵公園の「一太郎やあい」像のエピソードを題材にした作品「海と路/一太郎やあい」などが展示されており、会場の一つ、旧吉田酒造場の久玉秀昭さん(72)は「かつて交通の要衝として栄えた多度津のにぎわいが戻ってほしい」と期待を込めた。


尾花賢一さんの作品「海と路/一太郎やあい」に見入る来場者=多度津町

尾花賢一さんの作品「海と路/一太郎やあい」に見入る来場者=多度津町


 本島(丸亀市)では、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている笠島まち並保存地区でもさまざまな作品を展開。同地区北端の砂浜には「水の下の空」と題したアレクサンドル・ポノマリョフさんの作品があり、岡山市から訪れた会社員小橋広夢さん(43)は「作品を見る前から瀬戸大橋の近さに驚いた。船も多いこの景色とマッチして素晴らしい」と笑みを浮かべた。
 粟島(三豊市)では、芸術家村滞在作家の佐藤悠さん(36)が住民らと一緒に制作したパノラマ型の「粟島大絵地図」などが注目を集めた。粟島出身で三木町氷上の大矢根武夫さん(80)は「大絵地図には自分の家が描かれていて、うれしかった」と目を細めていた。

(四国新聞・2022/09/30掲載)


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