新制作協会会員で県展審査員の彫刻家大西康彦さん(80)=香川県丸亀市=と、墨で絵画のような作品を制作することで知られるアーティスト樋笠幸三さん(81)=香川県善通寺市=の2人展が、香川県丸亀市綾歌町のギャラリー多閑坊(たかんぼ)で開かれている。反戦を訴えた石川県出身の川柳作家・鶴彬(つるあきら)(1909~38年)の生きざまに共鳴していた2人が、ロシアのウクライナ侵攻を愁い制作した彫刻や書で戦争のむごさを伝えている。27日まで。


塑像作品「哭」を前に説明する樋笠さん(左)と大西さん=丸亀市綾歌町、ギャラリー多閑坊


 鶴は日中戦争下の37年に治安維持法で逮捕され、29歳の若さで獄死した。大西さんはその生涯を彫刻で表現しようと5年ほど前にブロンズ像を創作。その際、作品に彫り込む鶴の代表的な反戦句「暁を抱いて闇にゐる蕾(つぼみ)」の揮毫(きごう)を40年以上の付き合いになる樋笠さんに依頼したところ、樋笠さんも当時の社会を鋭く批判したさまざまな句に感銘を受けた経緯があり、今回の2人展の開催につながった。
 2月24日に始まったウクライナ侵攻に心を痛めた大西さんは、塑像作品「哭(こく)」(高さ110センチ、幅46センチ、奥行き60センチ)を手がけた。荒廃した国土を思わせる四角柱に涙を流す人間の顔を彫り出しており、何かを訴えているようにも見える。
 作品の裏側には樋笠さんがしたためた鶴の句や、多くの民間人が犠牲となったマリウポリやブチャなどの町名も溶け込ませている。大西さんは「戦争反対と声を上げる精神を鶴から学んだ。今も命の危機にさらされている人々に思いを重ねてほしい」と話した。会場にはこのほか、ブロンズや木心乾漆の裸婦像など約45点が並ぶ。
 樋笠さんは、「手と足をもいだ丸太にしてかへし」「奴隷ではない女らの手のヨイトマケ」など鶴が詠んだ約30首を、羊毛の筆や割り箸を用いてそれぞれの色紙などに表現。伝統的な書の形式にとらわれず、躍動感あふれる世界観が広がっている。
 入場無料。問い合わせはギャラリー多閑坊、電話090-4976-7019。

(四国新聞・2022/11/23掲載)

ギャラリー多閑坊


所在地 香川県丸亀市綾歌町栗熊東3018-1
開館時間 10:00〜16:00
TEL 090-4976-7019


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