香川県高松市塩江町の古民家に残された物品を研究者や芸術家の視点で読み解く企画展「いにしによる―断片たちの囁(ささや)きに、耳を」が同市亀水町の瀬戸内海歴史民俗資料館瀬戸内ギャラリーで開かれている。昭和から平成にかけての生活用具など約530点が並び、住人が紡いできた物語とともに塩江地域の歴史を浮かび上がらせている。18日まで。


藤川邸で使われていた日用品が並ぶ企画展=香川県高松市亀水町、瀬戸内海歴史民俗資料館

藤川邸で使われていた日用品が並ぶ企画展=香川県高松市亀水町、瀬戸内海歴史民俗資料館


 古民家は内場ダム湖畔に立つ「藤川邸」。1954年に建てられ、98年から空き家になっていた。同邸は地域おこしに取り組む地元団体「トピカ」が、古民家の記憶を体感できるゲストハウスに改修する予定で、その一環として数年前から文化人類学者とアーティスト、地域住民が調査を行っている。
 企画展はトピカとの共催で実現。一般的な空き家調査では捨てられがちな日用品をアートなどの視点で展示し、個人の生活史を地域の公共の歴史として継承するのが狙い。タイトルは、藤川邸が仕事帰りの近隣住民が集う安らぎの場だったことから、讃岐弁で「帰りがけに寄る」を意味する「いにしによる」と題した。
 会場には昭和期の掃除機や炭を入れて温めるこたつ、着物用の華やかな履物など、住人が使っていた多種多様な物品を展示。松岡明子館長は「あえて価値付けをせず均等に展示することで家の物語をたどれるようにした」と説明する。
 このうち「とっくりセット」は、農作業を手伝ってくれた集落の人に当主がお礼として酒をふるまっていたというエピソードとともに紹介。また、53年に開かれた「ミス塩江」選考会の写真など往時のにぎわいを伝える史料のほか、アーティストが同邸から着想を得て制作したアート作品も鑑賞者の郷愁を誘っている。
 観覧無料。会期中は藤川邸を見学できる(要予約)。問い合わせは瀬戸内海歴史民俗資料館、電話087-881-4707。

(四国新聞・2022/12/05掲載)


瀬戸内海歴史民俗資料館



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