さぬき映画祭あす開幕 銀幕彩る香川の風景
香川の映画の祭典「さぬき映画祭2023」(さぬき映画祭実行委、香川県など主催)が4、5の両日、香川県高松市玉藻町のレクザムホールなどで開かれる。17回目となる今回も「さぬき」にこだわった作品がめじろ押しで、香川や瀬戸内地域が舞台となったり、県内で撮影したりした作品をはじめ、県出身の映画人が携わった映画など計12本を上映。作品によっては上映後に監督や出演俳優らによるゲストトークを行い、スクリーンで見る映画の素晴らしさや作品に登場する地域の自然、街並みなどの魅力を伝える。会場では、入場時の検温やマスク着用を促すなど新型コロナウイルス感染対策を講じる。
オープニングは「人名の島」 本島舞台に葛藤描く
今回のオープニング上映を飾るのは初公開となる「人名(にんみょう)の島」。2020年度のさぬき映画祭シナリオコンクールで大賞を射止めた三豊市の弁財(べざい)理恵子さん(64)=ペンネーム=の作品を映像化したもので、かつての塩飽水軍の本拠地、丸亀市本島を舞台にストーリーは展開する。
タイトルの「人名」とは、本島など塩飽諸島に暮らす650人の船方たちに豊臣秀吉が領地と自治権を与えた独自の制度で明治時代まで続いた。
物語は400年続く人名の家に育った男性が主人公。男性は父の反対を押し切って島を離れ、東京の会社に就職。55歳の時、香川にある取引先の会社に出向することになったため帰県し、幼なじみで初恋の女性と再会して一緒に暮らし始める。だが、人名の誇り高い歴史や過疎・高齢化する生まれ育った島の現状に触れ、島に帰るべきか―と将来について悩む男性の揺れる心情を描いている。
上映後は本作品を手がけた高松市の映画監督・木山みどりさんをはじめ、主人公を演じた劇団俳優の加藤光昭さん、初恋の女性役の俳優・片山きょうこさんらがトークで登壇。脚本家でシナリオライターの大津一瑯さんが講評する。
原作者・弁財さんインタビュー 過疎化の進行 制作テーマに
さぬき映画祭第5回シナリオコンクールの大賞受賞作を映画化した「人名の島」が、オープニングとして上映される。原作者の弁財理恵子さんに、作品に込めた思いなどを聞いた。
―なぜ、この作品の着想に至ったのか。
身近に空き家が増えてきたのがきっかけ。古くから代々続く立派な家ですら跡継ぎがいなくて空き家になっている現状を目の当たりにしてどこか寂しく、やりきれない思いが募り、過疎化や空き家問題をテーマにした作品を書こうと思った。
-丸亀市本島を舞台に選んだ理由は。
曽祖父、祖父、父の3代が三豊市にあった塩田で荷役の親方をしていて、小さな船をたくさん持っていた。その影響からか塩飽水軍や村上水軍などに興味があり、塩飽諸島に伝わる「人名」のことも知っていた。実際に島へ渡り、住民から過疎化する島の実情を聞いているうちに、作品の世界観に合致すると感じた。
―撮影に同行したそうだが。
映画製作ではシナリオ変更がよくあると聞くが、木山みどり監督は原作を忠実再現しようと、カットごとに細かくイメージや登場人物の心情などを確認してくれたのがうれしかった。島の住民の皆さんが快く撮影に協力してくれたことにも感謝している。
―今後の活動は。
今のところシナリオ制作を続ける予定はないが、書くのは好きなので趣味で文芸活動を続けていきたい。
地域密着映画の魅力は?
はちみつレモネード/虹色はちみつ 梅木佳子監督 住民の撮影協力に感謝
さぬき映画祭の上映作「はちみつレモネード」と「虹色はちみつ」の監督を務めた梅木佳子さん(52)=丸亀市=。香川など地方を舞台にした作品で、他県の映画祭でも高い評価を得ている。「撮影して終わりではなく、ロケ地に国内外から多くの観光客が訪れ、地域が活性化する作品を目指したい」と胸中を語る。
今回の上映作を含む過去4作品は主に香川ロケ。地元に焦点を当てるのは「大学時代、東京から帰省する際に列車から見た瀬戸内の景色を世界の人に見てもらいたい」と考えたから。
撮影は困難の連続だったが、住民に出演してもらったり、物資の面でも協力してもらったりと「地域の人のおかげで乗り切れた」。「虹色―」のロケ地、琴平町では作品とのコラボレーション商品が誕生するなど地元の反響に手応えを感じている。
同映画祭の映像塾で製作の面白さに目覚め、映画作りを支える仲間ができたのも大きな財産だ。「作り手を育成する映画祭は珍しく、今後も継続してほしい」と訴える。その上で「誰でも出品できる仕組みを作るなど、県外や海外の人が訪れやすい祭典になれば」と期待を寄せた。
ぐるり1200キロ、はじまりの旅 香西志帆監督 思わぬ景色 驚きの連続
2007年のさぬき映画祭「映像塾」をきっかけに、会社員との二足のわらじを履きつつ、140本以上の映画・ドラマで監督を務めている香西志帆さん(46)=高松市=。7割以上は地元を舞台にした作品で、今映画祭で上演する「ぐるり1200キロ、はじまりの旅」も総本山善通寺などで撮影。賢島映画祭(三重県)でグランプリに輝くなど高く評価された。
PRや啓発などのための動画を依頼されて撮ることが多いという。「著名な観光地や、地元で有名な場所が、見た人が行きたくなる映像になるとは限らない。先入観なく探すと思わぬ景色が見つかって、いつも驚きの連続」と打ち明ける。どの風景の中でクライマックスを繰り広げるのか、ピンとくる瞬間があるそうだ。「これだ」と思ったシーンは、やはり反響があると振り返る。
オンライン時代、海外向けのネットドラマなど発信の形もターゲットも変わってゆく。「響く映像を作るためには、本業である地域ブランディングやマーケティングの知識が生きている」。さぬき映画祭を通じて、夢をかなえる人がまた一人増えることを願っている。
ピックアップ作品
八日目の蟬
作家・角田光代さんのベストセラー小説を映画化したヒューマンサスペンス(2011年公開)。「母性」をテーマに、不倫相手の女児を誘拐した女性の逃亡劇と誘拐された女児の成長後を描く。主演は井上真央さん、永作博美さん。
小豆島は劇中の重要な舞台となっており、火で虫を追い払って豊作を願う伝統行事「虫送り」を再現した中山千枚田や寒霞渓など美しい風景を捉えている。
【ゲスト登壇】浅生博一(ヴィレッチプロデューサー)、有本裕幸(小豆島フィルムコミッション総括プロデューサー)
劇場版 からかい上手の高木さん
2021年度県文化芸術新人賞を受賞した土庄町出身の漫画家、山本崇一朗さん原作・監修のアニメーション映画(2022年公開)。小豆島が舞台で、鹿島明神社やエンジェルロードなどの聖地を訪れた人も多いのでは。
恋愛に奥手な男子中学生が同じクラスの女子にからかわれる日常を描いたラブコメディーで、劇場版では2人の中学最後の夏を描いている。コミック発行部数はシリーズ累計1100万部を突破、テレビアニメにもなった。声優は高橋李依さん、梶裕貴さんほか。
【ゲスト登壇】赤城博昭(監督)=4日のみ=
(四国新聞・2023/2/3掲載)