香川県小豆郡小豆島町と香川県小豆郡土庄町にまたがる太麻山(たいまさん)(標高427メートル)。その中腹に小豆島霊場42番札所・西の滝龍水(りゅうすい)寺がある。古くから行場として信仰された山岳霊場で、集塊岩が浸食された斜面に建てられた護摩堂から眺める瀬戸内海の絶景は、多くの参拝者らの心を癒やしていると聞く。2月下旬、実景を一目見てみようと高松港からフェリーに乗り込んだ。


断崖に張り付くように建てられた護摩堂

断崖に張り付くように建てられた護摩堂


 池田港から車で山を登って約15分。境内へ続く参道は長い階段で、両端に計126本の石灯籠が整然と立ち並ぶ。一本一本見入りながら歩を進めると護摩堂や本堂、大師堂などが見えてきた。
 寺伝などによると、開創から1200年以上の歴史があるとされる同寺は廃仏毀釈(きしゃく)によって明治初期に廃寺となったが、島霊場33番札所・長勝寺が由緒ある龍水寺の霊域を守ろうと管理維持を引き受けた。しかし、1970年1月の山火事で本堂以外の建物はほぼ焼失。修繕を重ねて平成初期に現在の境内として復興したという。
 本尊は弘法大師が太麻山の石で彫ったと伝わる秘仏・十一面観世音菩薩(ぼさつ)。33年間に一度開帳され、次回は5年後の2028年に公開される。火災を免れた貴重な“お姿”が拝観できる日に思いを寄せながら本堂奥へと進むと、岩窟へつながる入り口を見つけた。
 岩窟は全長50メートルほど。寺を預かる小林龍應さん(76)に導かれて薄暗いトンネルを少し進むと、「龍水」という名の泉の隣に、弘法大師伝説の壺「開かずの石瓶(いしかめ)」が祭壇に鎮座していた。


護摩堂の回廊から望む瀬戸内海。眼下に土庄の街並みが広がる

護摩堂の回廊から望む瀬戸内海。眼下に土庄の街並みが広がる


 伝説によると、山を訪れた弘法大師が周辺の人々を困らせていた悪竜を壺の中に閉じ込めたことで、竜は村人への償いを約束。以来、どんな日照りでも枯れることなく清水がわき出るようになった-とされる。龍應さんは「実際は鉄砲水が起こりやすい地形だったことから、治水技術を持つ弘法大師が住民に知識を与えたのではないか」と伝説の起源を読み解く。弘法大師御誕生1250年となる節目の今年、小豆島での功績に理解を深めることができた。
 岩窟を抜けると、炎に無病息災などを願う「護摩行」を営む護摩堂へとつながる。護摩堂から回廊へ踏み出すと、眼下には青く輝く瀬戸内海が広がり、大与島をはじめ、観光地のエンジェルロードも視界に入る。取材日は少し霧がかかっていたが、晴れた日には東に淡路島や大鳴門橋を目にすることができ、圧巻の眺望が楽しめる。最近は台湾など海外からも参拝者が訪れるといい、ここからの景色に舌を巻くそうだ。
 暗いトンネルを抜けた先で、こんなにも広がりを感じる自然美を堪能できるとは思ってもみなかった。またここに元気をもらいに来よう。

(四国新聞・2023/03/11掲載)



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