香川県仲多度郡琴平町の金刀比羅宮(琴陵泰裕宮司)の奥書院にある江戸中期の絵師・伊藤若冲(じゃくちゅう)(1716~1800年)の障壁画「百花図(ひゃっかのず)」。劣化が進んでいた障壁画の修復が完了したのに合わせ、9年ぶりに奥書院を一般公開する特別展「お待たせ!こんぴらさんの若冲展」が開かれている。百花図など普段は非公開の貴重な作品が間近で見られる絶好のチャンスとあって、早速足を運んだ。


修復された百花図のふすま絵。きらびやかで存在感がある=香川県琴平町、金刀比羅宮

修復された百花図のふすま絵。きらびやかで存在感がある=香川県琴平町、金刀比羅宮


 訪れた日はあいにくの雨だったが、緑豊かで静かな境内に響く雨音や野鳥のさえずりが心地よかった。書院に入ると、広々とした表書院が出迎えてくれる。1658~61年の建築と伝えられ、客殿として使われていたという。七つの部屋に分かれており、それぞれ異なる表情の障壁画が鑑賞できる。
 中でも有名なのが円山応挙(1733~95年)の「遊虎図」。三方を囲むふすま16面に8頭の虎が描かれている。水を飲んでいたり、猫のように丸くなって寝ていたりと、虎のさまざまな姿を表現している。力強さだけでなく愛嬌(あいきょう)も感じられ、思わず頬が緩んだ。写生を重視した応挙ならではの筆致にも注目したい。


愛らしさも感じさせる虎が描かれた遊虎図

愛らしさも感じさせる虎が描かれた遊虎図


 他の障壁画や中庭の景色も堪能しながら歩みを進めると、百花図がお目見え。作者の若冲は江戸中期に京都で活躍し、奇想の絵師として知られる。百花図は、同宮第10代別当宥存(ゆうそん)の依頼で若冲が1764(明和元)年に制作したものとされており、奥書院にある6畳ほどの「上段の間」の壁やふすまに201点の花々が描かれている。特別展では修復したふすま絵4面を取り外して展示している。
 金色の下地にツバキやユリ、アサガオなどが浮かび上がり、存在感を見せていた。案内板によると、それぞれの花がほぼ同じ大きさ(縦約30センチ、横約40センチ)で描かれているという。繊細な花々をじっくり鑑賞した後、上段の間へ行くと、空間全体に若冲の花が咲き誇る圧倒的な美しさに目を奪われた。
 続いて「菖蒲(しょうぶ)の間」では江戸後期の絵師・岸岱(がんたい)の「群蝶図(ぐんちょうず)」が見られる。金色の下地の上に華麗な羽のチョウが優雅に舞っている。当時の琴平町の画家・合葉文山が収集したチョウを岸岱が写生したと伝えられており、昆虫学上でも貴重な参考資料として知られているそうだ。このほか、同じく岸岱の「水辺柳樹白鷺図(すいへんりゅうじゅはくろず)」や狩野探幽(たんゆう)の「虎図」なども存在感を放っている。
 特別展を訪れてみると、それぞれの絵師が創造した世界に浸ることができた。会期は6月11日まで。入場料は2千円ほか。1時間ごとの入れ替え制で、館内はマスク着用。問い合わせは金刀比羅宮〈0877-75-2121〉。

(四国新聞・2023/04/22掲載)


金刀比羅宮



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