香川県綾歌郡綾川町の山あいにたたずむ旧枌所小学校。「平成の大合併」に伴って閉校した同校は、NPO法人「かがわ・ものづくり学校」(理事長・倉石文雄元香川大創造工学部教授)が2006年に借り受け、通称「モノハウス」としてアーティストの活動拠点に生まれ変わっている。山間部を舞台にした「山なみ芸術祭」を開くなど現代アートを通じ、作家と住民らが協力して地域の活性化に取り組んでいるという同所を訪ねた。


屋上で「街」をモチーフにした陶芸作品を紹介する倉石さん(右)と信長さん=香川県綾歌郡綾川町枌所、かがわ・ものづくり学校

屋上で「街」をモチーフにした陶芸作品を紹介する倉石さん(右)と信長さん=香川県綾歌郡綾川町枌所、かがわ・ものづくり学校


 高松から車で県道39号を南方面へ走り、住民らが名付けた「夫婦坂(しあわせざか)」を通ると、枌所公民館に隣接する旧小学校に到着。待ち合わせていた倉石理事長と、ここを拠点に活動するアーティスト天歌布武(てんかふぶ)信長さん=札幌市出身=が校内を案内してくれた。
 校舎は3階建て。廊下を歩いていると、生命をテーマにした鮮やかな色合いの壁画や、愛らしい幼児がモチーフの立体造形などが目に入り、なんだかわくわくした気持ちになった。現在は陶芸が専門の倉石理事長を含む芸術家5人がかつての教室や放送室、ランチルームなどをアトリエや文化教室として活用しているそうだ。


2階につながる階段の壁に描かれた、生命をテーマにした絵画

2階につながる階段の壁に描かれた、生命をテーマにした絵画


 倉石理事長は「当初は金銭的な制約に縛られてしまいがちなアーティストのための制作発表の場にしようと考えていた」と打ち明ける。しかし、旧綾上町のシンボルだった同校を愛し続ける地域住民の思いを受け「ここに根付く文化交流をなくしてはならない」と方針を転換。ワークショップの開催や野外音楽ステージを設けるなど地域のにぎわいづくりに力を入れつつ、希望した作家が自由に表現活動を行う展覧会「実験展」を06年から続けている。
 11月4、5日にあった30回目の実験展では、芸術家に負けじと町内外の住民でつくる「やまなみクラブ」が風呂敷を使ったインスタレーションを初出品。同クラブは現代美術展「山なみ芸術祭」でも作家のサポートなどを行っており、倉石理事長は「作家の活動を目の当たりにすることで、現代アートは身近なものだと思っていただけたのでは」と笑みを浮かべる。
 元ランチルームには、スズ合金や枯れた植物を白シャツと組み合わせた作品を展示したり、屋上まで上がると「街」をテーマに造形した白い陶芸が約千個並んでいたり。町なかの美術館にはない楽しみ方が生まれているように思えた。
 信長さんは「地域との交流に前向きな作家がさらに増えれば、新たな可能性も見えてくるはず」と期待を寄せる。自然豊かな山間部に広がる多彩なアートを堪能したひとときだった。
 見学希望者は事前に連絡が必要。問い合わせは同法人、電話090-7577-9114。

(四国新聞・2023/11/25掲載)


NPO法人かがわ・ものづくり学校



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