香川県小豆島町出身の作家・壺井栄(1899~1967年)の直筆原稿などを紹介する企画展が、同町田浦の二十四の瞳映画村内にある壺井栄文学館(大石雅章館長)で開かれている。子どもへの愛情などをテーマに描いた名作「母のない子と子のない母と」の原稿用紙には何度も推敲(すいこう)した跡が残っており、来館者は家族の大切さや平和を強く願う栄の思いがにじんだ丁寧な書体に見入っている。5月12日まで。


壺井栄の直筆原稿などに見入る家族連れ=香川県小豆島町田浦、二十四の瞳映画村内の壺井栄文学館


 栄と親交があった同町出身の故山口大二さん=東京都=が収集していた直筆原稿など533点を、遺族が2021年秋に町に寄贈。整理作業が完了し「山口大二コレクション」と題し、製本された直筆原稿など34点を展示している。
 注目は、映画やドラマにもなった「母のない子と子のない母と」の直筆原稿。終戦直後の小豆島を舞台に、母を失った子どもたちと、戦争で家族を亡くして島に戻ってきた女性との交流を描いている。会話の部分では、枠外に言い方を少し変えた別パターンを用意したり、編集者に分かりやすいよう加筆や削除などの指示や提案を書き込んだりしており、読みごたえがある。
 「右文(みぎふみ)覚え書」は1951年刊行の小説。栄と夫の繁治が戦争と病気で両親を失った生後1カ月の「右文」を引き取って育てた実話に基づいている。山口さんは原稿用紙を製本しており、その際、表布に右文が使っていた産着を使用。栄の丁寧な書体に、折り鶴や梅をあしらった淡いピンク色の表紙が相まって、家族への愛情が伝わってくる。
 このほか、栄の署名が入った「二十四の瞳」など初版本24冊が並んでいる。
 家族で訪れた兵庫県芦屋市の英語講師、寺田由香さん(59)は「原稿用紙の文字を見つめていると、女性の視点で時代を捉え、優しく、強く訴えかけてくる壺井栄さんの姿が浮かんでくるよう」と話していた。
 映画村の入村料として中学生以上890円、小学生450円が必要。問い合わせは二十四の瞳映画村、電話0879-82-5624。

(四国新聞・2024/04/19掲載)



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