香川のてぶくろ資料館、東かがわ手袋ギャラリー 香川県東かがわ市 ものづくり精神脈々と トップ選手用やアートも
手袋生産の国内シェア約9割を誇る香川県東かがわ市。その歴史は130年におよび、ものづくりの精神が今も受け継がれている。日本一の産地に上り詰めた背景は―。学びを深めようと、同市にある二つの資料館を訪ねた。
同市湊にある「香川のてぶくろ資料館」は手袋産業の歩みを紹介している。同館によると、東かがわの手袋産業は1888(明治21)年、旧白鳥町の寺僧・両児舜礼(ふたごしゅんれい)が大阪で生計を立てるため、手袋の製造を始めたことに由来するという。
舜礼の死後は、いとこの棚次辰吉が事業を継承。99年に同市松原に下請け工場を開設し、第1次世界大戦をきっかけとした需要増などにより基盤を確立、事業を拡大していった。
展示室には昭和初期製造の手袋のほか、スポーツ手袋も紹介。同市の企業が製作したプロゴルファーの松山英樹選手や東京五輪フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得した宇山賢選手らトップアスリートの手袋も並び、脈々と継がれる卓越した技術力を垣間見た。
同館を運営する日本手袋工業組合の村井一樹事務局長は「ものづくりの火を絶やさぬよう、手袋産業と若い世代のつなぎ役となりたい」と話していた。
来年の瀬戸内国際芸術祭の会場に選ばれた「東かがわ手袋ギャラリー」(同市引田)は手袋をアートとして展示。2000年ごろまで製造工場として使用されていた明治時代建造の建物を改装し、08年にオープンした。足を踏み入れると、庭や森をモチーフに、ニットやレースなどの色鮮やかな手袋で飾り付けたエリアがお目見え。「手袋アート」の珍しさに心が引かれ、思わず写真に納めた。
工場時代に使用されていた昭和のミシンや木型なども展示されている中、なぜかたこつぼも。案内してくれた東かがわ手袋観光振興会の大字正数会長が「縫い子さんが火鉢代わりにしてつぼを膝に挟んで暖を取っていたそう。たこつぼ漁が盛んな香川ならではですね」と教えてくれた。
かつては市内を歩くと手袋工場の音があちこちから聞こえてきたとか。今もなおトップシェアを堅持しているものの、同市の企業を中心とする日本手袋工業組合の加盟社数は大幅に減少。作り手不足も課題となっている。大字会長は「次代の人が新しい風を吹かせ、この業界を守ってほしい」と力を込めた。
資料館とギャラリーを訪ねると、地場産業の歴史だけでなく、関係者の熱い思いにも触れられた。
(四国新聞・2024/12/14掲載)