街で本とアートに触れて 20代夫婦が開業 高松の商店街
全国的に書店が減少する中、香川県高松市の南新町商店街の一角で書店「絵と本 羊雲(ひつじぐも)」がオープンした。アート関連や文芸を中心にした書籍が並び、美術作品を展示するギャラリーも併設。日本画家の福井智恵美さん(26)=同市出身=と夫の会社員寺沢柊人(しゅうと)さん(26)=静岡県出身=が営む。2人は「本を入り口にして、地域の人に幅広い文化を伝えたい」と話している。
好きを集める
同店は、周辺に個人経営の書店が点在する南部3町ドーム近くで11月16日に開業。1階の書店では美術書やイラスト集、文芸書など、2人がセレクトした新刊と古本約1000冊が出迎えてくれる。2階のギャラリー(約15平方メートル)では福井さんらの日本画作品を展示している。
コンセプトは「自分たちの『好き』を集めた空間」。オープンから1カ月がたち、「学生からお年寄りまで幅広いお客さんが訪れ、優しく声をかけてくれる」と2人。店番の傍ら絵画制作する福井さんも人との出会いがインスピレーションにつながっているという。
2人は東京の大学を卒業し今夏結婚。開業を決めたのは、都心で生活する中で地元との文化格差に驚いた経験から。東京では数多くの書店やギャラリーを歩いて巡ることができる一方、地方ではその環境が不十分だと感じた。「店がある場所は私の高校時代の通学路でもある。故郷の学生にも都心でしかできない経験を少しでも味わってほしい」。福井さんはこう振り返る。
目的の多様化
出版文化産業振興財団の調査によると、8月末時点で書店がない市区町村の割合は全国で27・9%に上る。一方、個人経営で小規模ながら選書にこだわる形態の店舗は一部地域で増加傾向にあるという。
羊雲のオープンによって、周辺はより一層「本屋巡り」が楽しめるスポットになっている。近くの古本YOMS(高松市田町)の斎藤祐平さん(42)は「蔵書のジャンルが重ならず、お客さんにとっては選択肢が増えてプラスになる」と歓迎。昨今の独立系書店について「商売目的だけでなく、本を通じて生まれるコミュニケーションを大切にしたり、地域の文化を守ったりと、書店のあり方が多様化してきている」と想像する。本屋ルヌガンガ(同市亀井町)の中村勇亮さん(42)も「読書文化を一緒に盛り上げたい」と話している。
(四国新聞・2024/12/23掲載)