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瀬戸内国際芸術祭2025=まちの移ろい紡ぐ塩の波 秋会期新エリア 宇多津・倉の館三角邸 作家、制作風景を公開
瀬戸内国際芸術祭2025秋会期の開催地域の一つであり、今回が初参加となる香川県綾歌郡宇多津町で、出展アーティストが滞在制作を行っている。国登録有形文化財の近代和風建築「倉の館三角邸」で制作が進むのは、塩で和室の床に巨大な模様を描くインスタレーション。5日に特別公開が行われ、かつて「塩のまち」として栄えた同町と結びつく作品作りに、多くの町民らが見入った。
8月に入り、作品「時を紡ぐ」を手がけているのは2016年の瀬戸芸以来、2度目の出展となる山本基(もとい)さん(59)=石川県=。三角邸の座敷2室(10畳、8畳)と茶室(6畳)の床に青い板を敷き、その上に手元のプラスチック容器から塩を少しずつ落とし、渦や波、細かな泡のような模様を描き進めている。
塩を使ったインスタレーションを長年制作する山本さんは妹や妻を病気でなくしている。時と共に薄れていく記憶をつなぎ留め、別れを受容する形を探す―。作品にはそうした思いが投影され、加えて今回は「塩作りが盛んだった宇多津の『移り変わりや大きな流れ』をイメージとして取り込んでいる」と話す。
容器に付いた太さ約3ミリのノズルの先から、さらさらと落ちていく塩。床に下絵はなく、山本さんは座り込み、黙々と模様を紡いでいく。特別公開に訪れた町民は興味深そうに見つめ、母と訪れた宇多津北小学校1年の原田寛太さん(6)は「ずっと見ていたい海みたい」とつぶやいた。
秋会期は10月3日~11月9日の38日間。町内では、山本さんを含む4人のアーティストによる作品が臨海公園や古街など、計7カ所で展開される。山本さんの作品は今月12日ごろの完成を予定している。
(四国新聞・2025/08/07掲載)