四国霊場86番札所の志度寺(さぬき市志度)の境内には、作庭家の重森三玲(みれい)(1896~1975年)が手掛けた枯山水の庭「無染庭(むぜんてい)」がある。京都の竜安寺を思わせる庭は、志度寺に伝わる「海女の玉取り物語」を基に造られたという。静かな庭で心を落ち着けて、悲しくも美しい海女の物語に思いをはせてみよう。


仁王門前から五重塔を望む=いずれもさぬき市志度、志度寺


 今から1300年ほど前、藤原不比等が竜神に奪われた玉を取り戻そうと、身分を隠して志度の浦へやって来た。ここで不比等は海女と恋に落ち、房前を授かった。不比等が志度の浦に来た理由を知った海女は、愛する夫のために竜宮へ潜り玉を奪い返したが、息絶えてしまう―。

 お遍路さんが訪れる納経所には、海女の玉取り物語が描かれた「志度寺縁起絵巻図」のレプリカが展示されている。絵巻の中には海女が玉を奪い返したという島が描かれ、大臣にまで出世した房前が志度を訪れ、母の供養のために建てたという石塔も見える。

 寺にはもともと曲水式庭園があったが、地震で壊れていた庭園を戦後に復興する際、重森三玲を招いて無染庭が新しく造られた。


瀬戸内海を思わせる白砂の中に島を表現した石が浮かぶ


 白砂が敷かれた空間には、いくつかの石が見え、瀬戸内海の島を表している。この石は見る角度によって、五つに見えたり、六つに見えたり。しかし、左右に移動しながら一つずつ数えてみると七つ。右手にある石の裏にはもう一つ石が隠れていて、これは海女が乳房に玉を隠した場面を現しているといわれている。


書院の中央から見た庭


 また、真ん中に見える細長い石は、海女が玉を奪い返した島と不比等が乗っていた船を表現しているという。「『無染』は何者にも染まらない、純粋でひたむきな心という意味です」と同寺の野崎恭一学芸部長。愛する人のために命を捧(ささ)げた海女の生きざまを思いつつ、静かな時間を過ごした。

 無染庭を見学したい場合は納経所へ。無料で見学できる。問い合わせは同寺〈087(894)0086〉。

(四国新聞・2019/10/01掲載)

志度寺(さぬき市志度)


所在地 香川県さぬき市志度1102
TEL 087-894-0086


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