香川県まんのう町の「三霞洞(みかど)渓谷」は土器川上流の明神川にある景勝地で、香川新報社(現・四国新聞社)が昭和の初めに選定した「讃岐十景」の一つ。長雨がやっと過ぎ、真夏の暑さが戻った8月下旬、涼感を求めて渓谷を訪ねた。


勢いよく流れ落ちる滝は涼やかだ

勢いよく流れ落ちる滝は涼やかだ


 高松市街地から国道193号や県道39号を南下して車で約1時間。午前11時半ごろ、同町内の山道に入ってから見かけた電光掲示板には気温28度と表示されていた。調べたところ、同時刻の高松市内は30度を超していたため、避暑への期待が高まる。

 1986年発行の「琴南町史」によると、周辺地域は「三角(みかど)」の文字が用いられていた。それが明治末期に地元住民の大野直太郎が私財を投じて渓谷を景勝地として開発し、三霞洞渓谷と名付けたそうだ。現地の観光案内図やインターネット上の記事には「美霞洞」の表記も見られるが、こちらは旧琴南町が99年に日帰り温泉施設「道の駅ことなみ エピアみかど」を設立したのを機に設定した当て字のようなものだという。

 まずはエピアみかどの駐車場に車を止め、明神川を眼下にのぞき見るように整備された遊歩道を歩いた。遊歩道の左手、渓谷側からは、ごうごうという水音が聞こえてくる。雨が続き、水量が増したためだろう。かと思えば、道路側からも似た音が…。不思議に思っていると、数台の車が美霞洞トンネルを抜けてエピアみかどに入っていった。走行音がトンネルに反響して、水流のように聞こえていたようだ。

 木々が茂る遊歩道は緩やかな下り坂になっており、3、4分ほど進んだところで温泉の源泉付近に作られた駐車場に出た。川の浅瀬では家族連れが飼い犬と水遊びを楽しんでおり、和やかな光景に癒やされた。駐車場から続く「仙通橋(せんつうばし)」を渡ると、山手に滝が見える。流れを二つ、三つに分けながら勢いよく落ちる様子は、なんとも見事。晴れ続きの日は水量が減るそうだが、水分を含んでひんやりとした空気と、絶え間ない水音をしばし堪能した。


樹齢数百年と推定されるモミジと「三霞洞八景」の一つに数えられる不及亭

樹齢数百年と推定されるモミジと「三霞洞八景」の一つに数えられる不及亭


 滝の近くには樹齢数百年と推定されるモミジの大木がそびえており、太い根の上には石鎚神社と呼ばれるほこらと休憩所がある。かつては「不及亭(ふきゅうてい)」と呼ばれた茶堂だったそうで、これは大野が渓谷内の美しい景観に名付けた「三霞洞八景」の一つ。不及亭は大蛇が7周半も巻き付いた伝説が残る、神秘的な場所でもある。

 三霞洞八景のいくつかは時の流れと共に詳細な場所が不明になったが、弘法大師が雨乞いをしたとされる「雄淵(おんぶち)・雌淵(めんぶち)」、人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」の主人公が修業時に切った岩に似ているという「夫婦(めおと)岩」は、今も注目のスポット。駐車場から歩いて渡った仙通橋も、仙人が通ったとされる八景の一つだ。渓谷一帯は紅葉の名所でもあり、例年11月上旬から中旬にかけてが見頃だという。

(四国新聞・2021/08/28掲載)

三霞洞渓谷



関連情報