秋が深まり、紅葉の美しさに心引かれる季節となった。香川県東かがわ市大谷の釈王寺では毎年、境内の大きなイチョウが黄色く染まる。葉が散って一面に落ちた地面はじゅうたんを敷き詰めたようで、この辺りでは知る人ぞ知る穴場だとか。本格的な見頃を前に、ひそかに人気を集める紅葉スポットへ向かった。


本堂の前に広がる黄色のじゅうたん。昨年も圧巻の景観が楽しめた(資料)=香川県東かがわ市、釈王寺


 JR高徳線の丹生駅から車で5分ほどの距離にある釈王寺。高松市出身の郷土史家・荒井とみ三氏(1902~71年)の「おおち夜話」によると、丹生は水銀の産地を指し、奈良の東大寺の大仏造営の際にはこの地区から産出された水銀も集められたのではないかとされている。

 駐車場に車を止め、早速境内へ。仁王門をくぐると、目の前に本堂が見えた。本堂は平安朝風の様式で1991年に再建された。寺の開基は725(神亀2)年、行基によるもので、803(延暦22)年に弘法大師・空海が開山、伽藍(がらん)を建立し、自刻の聖観世音菩薩(ぼさつ)を安置したと伝わる。天正年間に長宗我部氏の兵火で焼失。その後、寛文、享保と続いて火災に遭いながらも、その都度再建され、現在に至る。寺はさぬき三十三観音霊場の一つで、観音菩薩は国の重要文化財にも指定されている。

 仁王門を入って右側を見上げると、どっしりと立つ大きなイチョウの木が目に入る。11月上旬のこの日はまだ葉は緑色だったが、例年11月後半辺りには見頃を迎えるそう。葉が落ちた後の景色も魅力的で、天候にもよるが、風がなければ1週間から10日ほどきれいなイチョウのじゅうたんが楽しめる。


間もなく黄色く葉を染め、参拝客の目を奪う釈王寺のイチョウ。訪ねた日はまだ緑色だった


 境内にはたくさんのモミジもあり、本堂の左脇の道を上がるとアーチのようになったモミジの葉が出迎えてくれる。毎年紅葉シーズンに撮影に訪れるファンもいるとか。本堂東側のえんま堂や不動堂などがある境内には桜やアジサイ、ツツジなどが植栽されており、季節の花々が寺を彩る。ぜひ、一度は訪れてみてほしい穴場だ。

 近隣の紅葉も見逃せない。中でも、湊川上流にある五名ダムは市内随一のスポット。豊かな自然が広がる中、周辺の山や谷のモミジに目を奪われ、ツーリングやドライブ中に道に降り立ってカメラを構える人が多い。人形劇場などを有するとらまる公園横の大内バスストップ近くには、20本ほどのモミジバフウがずらりと並び、見事な風景をつくり出している。

(四国新聞・2021/11/13掲載)

釈王寺


五名ダム



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