香川の映画の祭典「さぬき映画祭2022」(同実行委、県など主催)が5、6の両日、香川県高松市玉藻町のレクザムホールなどで新型コロナウイルス感染対策を講じて開かれる。16回目となる今回は「さぬき」にこだわった作品をラインアップ。県内で撮影した新作をはじめ、香川ゆかりの映画人が携わった作品計16本を上映する(オンライン含む)。各上映会では、出演俳優や監督らによるゲストトークを実施。また、昨年10月に関連イベントとして初開催した鑑賞のこつを指南する「映画ゼミナール」のダイジェスト映像をオンラインで配信(要会員登録)するなど、多彩なプログラムで映画の魅力を発信する。



オープニングは「地蔵調査官」 虐待受けた少女の物語

 今回のオープニング上映を飾るのは、東かがわ市の会社員中村心太(ところてん)さん(31)=ペンネーム=脚本・初監督作品の「地蔵調査官」。2019年度のさぬき映画祭シナリオコンクールで大賞を受賞した中村さんの原作を映像化したもので、21年度の映画製作補助作品としてオール県内ロケで撮影した。

 「地蔵調査官」は、近年大きな社会問題となっている児童虐待をテーマにした作品。両親から虐待を受け、親戚の寺に身を寄せている主人公の少女は、寺の地蔵と一日中話している自称・地蔵調査官の男と出会い、「他の地蔵たちから最も尊敬されている地蔵」を一緒に探すことに。ところが少女はその地蔵に心当たりがあった…。

 主人公を演じるのは、若手女優の林ほのかさん。このほか、映画やドラマで活躍する俳優の曽我部洋士さん(愛媛出身)や佐々木讃さん(香川出身)らも出演する。上映後は中村監督、林さん、曽我部さんがトークで登壇。同コンクール審査員長の中島貞夫監督が講評する。

「地蔵調査官」 中村心太監督(東かがわ) インタビュー 周囲の支えで形にできた 

 「地蔵調査官」で初めてメガホンを取った中村心太監督に、作品に込めた思いや撮影の苦労などを聞いた。

 ―今回の映画で特に力を入れた点は。

 最近、児童虐待の痛ましい事件が相次いでおり、身近にいる子どもたちを周囲の人々が見守るという意識が高まれば悲惨な事件を防ぐことができるという思いを込めた。作品を通じてそのメッセージが多くの人たちに届き、共感が広がっていくことを願っている。

 ―大黒柱として初めて映画製作に携わった感想を。

 もともとシナリオを書く方に興味があり、監督を務めるとは想像もしていなかった。感想は「とにかく大変」の一言に尽きる。撮影地の選定や撮影許可の調整、出演者のオーディション、撮影、編集と一連の流れを経験できたことは大きな収穫となった。

 ―製作中は苦労が絶えなかったと聞く。

 挙げればきりがない。新型コロナで1年間撮影が遅れた上に、会社員という立場上、撮影は土日が中心で時間に追われた。池で撮影したシーンではロケハン時に比べ水位が下がり、アングル変更を余儀なくされるなど想定外の事態も多く対応に苦慮した。映像製作に関しては全くの素人。撮影スタッフや出演者にはたくさんアドバイスをもらった。勤務先の帝国製薬(本社・東かがわ市)も含め周りの人たちの理解と支えがあって形にできたと思う。感謝の気持ちでいっぱいだ。

 ―今後の活動目標は。

 いずれは児童虐待に関するチャリティー上映会などを行い、厳しい環境に置かれている子どもたちの支援に取り組んでいきたい。

「映画ゼミナール」配信 案内役・帰来さん 「製作者の思い知って」

 5日午後1時からは、実行委が昨年10月に開いた映画の楽しみ方講座「映画ゼミナール」のダイジェスト版をオンライン配信する。さぬき映画祭スタート当初の実行委員として運営に関わった経験があり、今回のダイジェスト配信の案内役を務める帰来雅基さん(67)=高松市=は「講座を見た上でぜひ映画祭の会場に足を運んでほしい」と呼び掛けている。

 講師は、「スパイダーマン」シリーズなど海外映画の字幕翻訳を手掛ける高松市の小河恵理さん、フリーアナウンサーで香川大客員教授の中井今日子さん、「釣りバカ」シリーズなどで知られる映画監督の朝原雄三さん(同市出身)の3人。それぞれが製作の裏話や映画館で鑑賞する魅力などを語る。

 ゼミナールは、映画鑑賞について改めて考えてもらうのが狙い。帰来さんは「スマホやタブレットで見る人が増えているが、映画は映画館で鑑賞することを前提に作られている。製作者の思いやテクニックを知ることでスクリーンの魅力を再発見してもらえたら」と強調。

 その上で、「まずは作品のことを詳しく調べずに鑑賞するのがこつ。自分なりに考え、評価した上で内容について多くの人と意見を交わしてほしい」と語った。

pick up

「ヒポクラテスたち」

 ユニークな試みとして、今年は「釣りバカ」シリーズなどで知られる朝原雄三監督が推薦する往年の名作「ヒポクラテスたち」を35ミリフィルムで上映する。デジタル上映が主流になる中、温かみのある画面で1980年公開当時の雰囲気を体感してもらう。

 京都の医科大学で最終学年を迎えた男女の青春群像劇。自らも医大生だった大森一樹監督の実体験を基に、故古尾谷雅人さん演じる主人公が医者の卵として成長する姿を描く。出演はほかに、人気アイドルグループ「キャンディーズ」の元メンバー伊藤蘭さんや名俳優の内藤剛志さんら。

 【ゲスト登壇】朝原雄三(監督)、帰来雅基(映画ナビゲーター)

「Arc アーク」

 上映作の中で、特に注目を集めそうなのが近未来の日本を舞台にした「Arc アーク」。作品では、人類で初めて不老不死の体を得た女性を芳根京子さんが演じる。建築家の故丹下健三氏が手掛けた県庁舎東館や瀬戸内海歴史民俗資料館、男木島灯台、小豆島など県内各地で撮影が行われた。

 原作は、ヒューゴー賞を受けるなど話題を集める米作家ケン・リュウの短編小説。「蜜蜂と遠雷」などで高い評価を受けた石川慶監督が、脚本家とともにオリジナルのストーリーに仕上げた。SFチックな物語ながらも、俳優たちの迫真の演技や臨場感あるカメラワークで、リアルな世界観を描き出す。

 【ゲスト登壇】石川慶(監督)

(四国新聞・2022/02/04掲載)


さぬき映画祭2022


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