猛暑だったためか秋の訪れが遅いように感じた今年も、ようやく風が涼しくなってきた。山里の風景を探しに曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の咲く道を抜け、東かがわ市の「五名ふるさとの家」を訪ねた。



 さぬき、東かがわの両市街から約20分。国道377号沿いに現れる木目も美しい建物が「五名ふるさとの家」だ。町おこしに取り組む住民組織・五名活性化協議会が2019年、にぎわいの拠点として、中学校跡の五名コミュニティセンター敷地内にオープンした。
 一歩入ると、中はすがすがしい木の香り。思わず「建築したばかりですか?」と聞くと、「完成してからもう3年半になりますが、自然乾燥と昔ながらの工法で造っているためか、空気感は変わりません」と店長の飯村大吾さん(32)が答えてくれた。
 地元や県内の農産品などが並ぶ中、目に付いたのがイノシシのラベルを貼った冷凍庫。「GOMYO GIBIE BOAR」。つまり、五名産のイノシシ肉(1キロ3780円ほか)だ。「近くの食肉処理施設で、適切に管理したものだけを販売しています」。地元で捕れたイノシシが運び込まれると、処理資格を持つ飯村さん自らが、新鮮さにもこだわり対処しているという。
 北海道出身の飯村さん夫婦が世界中を旅した後、「二人とも気に入った」というこの土地に定住を決めたのが6年前。研修生として林業を学ぶ傍ら、地元の人からイノシシの捕獲や処理法を学んだ。
 ちょうどその頃同協議会では、にぎわいや雇用の拠点にしようとカフェの立ち上げを計画。建物に必要なスギやヒノキなどの地元木材を飯村さんら研修生が切り出し、地域の大工さんや左官さんに昔ながらの工法で建築を依頼するなど〝地産地建〟にこだわった。飯村さんはその店長に就任、今やすっかり五名になくてはならない人材だ。


天井が高く明るい店内。真ん中の柱も飯村さんらが切り出し、加工したもの

天井が高く明るい店内。真ん中の柱も飯村さんらが切り出し、加工したもの


 モーニングの時間帯は地元の人が中心。昼になると、イノシシやシカの肉を使ったハンバーグやジビエソーセージ、地元産の卵を使ったオムライスといったメニューを目当てに、はるばる高松市内や県外からも大勢の人がやってくる。
 ランチが終わっても次々と車が止まり、イノシシ肉はもちろんシイタケやクリ、蜂蜜といった地元の産品を買い求める人が。ドリンクを片手にすっかり話し込んでいるお客さんの姿もあり、せわしない街中とは時間の流れが異なるようだ。
 「忙しい時期になると、地元の方が来て手伝ってくれるんです」と妻の遊宇(ゆう)さん。五名の人口約300人のうち、移住者が20世帯もいるというのが、この地域の居心地の良さを証明している。
 クリ拾いや炭の窯出しなどの体験のほか、季節ごとのマルシェも人気。秋は10月16日、冬は12月4日に地域あげてのイノシシ祭りと合同で行う予定で、このときにはイノシシの丸焼きの大盤振る舞いがあるという。
 一昔前には県内のあちこちにあった山里の暮らし。ちょっとのぞきに立ち寄ってはどうだろう。

(四国新聞・2022/10/08掲載)



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