約1300年前の奈良時代、高僧行基が讃岐を訪れた際、病に苦しむ住民らを救うために造ったと伝わる「塚原のから風呂」(香川県さぬき市昭和)。周囲が石積みの空間で木を燃やして蒸気を発生させる仕組みで、着衣のまま利用するらしい。寒さが身にこたえる年の瀬。古式サウナで心身ともに“ととのう”体験を求め、パジャマ片手に訪ねてみた。


から風呂で汗を流した男性。パジャマに頭巾が定番だ=香川県さぬき市昭和、塚原のから風呂

から風呂で汗を流した男性。パジャマに頭巾が定番だ=香川県さぬき市昭和、塚原のから風呂


 12月上旬の午後4時頃、琴電長尾駅から車で10分ほど走って到着。体から湯気が立ち上っている常連客が談笑する姿を横目に受付に向かうと、サインがずらりと貼られた壁に目がいった。
 「最近、交流サイト(SNS)を通じてサウナの聖地フィンランドからもお客さんが来て。思わずサインを書いてもらいました」。現状を教えてくれたのは地元有志らでつくる「塚原から風呂保存会」の小林憲一会長(76)だ。デジタル社会の今、原始的なスタイルに注目が集まっているのだろうか。
 早速更衣室で長袖のパジャマに着替える。石室内は高温のため、頭巾をかぶってやけどなどを防ぐのが決まりだ。風呂場に行くと、石と土でドーム型に造られたピザ釜のような石室(幅1・2メートル、奥行き2・7メートル)が二つ並んでおり、「あつい方」「ぬるい方」と札が下がっていた。
 から風呂は、間伐材などを石室内でたき、完全に燃焼したら塩水を含ませたむしろを敷き詰めて発生する蒸気で空気を熱するのが手順で、全て手作業で行っている。


石室内で間伐材を燃やす従業員。燃え尽きた後に塩水を含ませたむしろを敷く

石室内で間伐材を燃やす従業員。燃え尽きた後に塩水を含ませたむしろを敷く


 サウナ初心者のため、室温約80~90度の「ぬるい方」に挑戦。むしろの上に敷く座布団を持って戸を開けると、じんわりと熱さが伝わってきた。奥に行くほど熱がこもる仕組みで、10分ほど座っていると顔や腕からぷつぷつと汗が吹き出てきた。じっくりと体が温められるからか、室外に出てもしばらく体がぽかぽかする。これを数回繰り返すのが定番だという。
 「あつい方」は約130度の熱さで、ベテランでもより高温になる奥では長時間過ごせないそうだ。高松市から週2回通い続けて30年ほどになるという男性(64)は「風呂で汗を流して休憩するサイクルのおかげで体も心もリフレッシュする」と汗を輝かせながら話していた。
 近年はテレビドラマやインフルエンサーの口コミなどの影響で、1960年、90年代に続く第3次サウナブームといわれている。から風呂も4年ほど前から全国各地の愛好家が訪れるようになったが、経営は厳しい状態が続いているという。「ブームで終わらず長く愛し続けてほしい」と小林会長。次回は「あつい方」にチャレンジしようか―。

(四国新聞・2022/12/24掲載)



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