小豆島町出身の作家・壺井栄(1899~1967年)の直筆原稿4点が、香川県小豆郡小豆島町田浦の二十四の瞳映画村内にある壺井栄文学館(大石雅章館長)で特別展示されている。平和や家族の大切さを描いた名作「母のない子と子のない母と」の草案とみられる原稿や、未完成で出版されていない作品など未公開のものばかり。来館者は、栄の優しさがにじむ丁寧な書体や推敲(すいこう)の跡に見入っている。9月7日まで。


壺井栄の直筆原稿に見入る家族連れ=香川県小豆郡小豆島町田浦、二十四の瞳映画村内の壺井栄文学館

壺井栄の直筆原稿に見入る家族連れ=香川県小豆郡小豆島町田浦、二十四の瞳映画村内の壺井栄文学館


 特別展示は昨年6月、栄の孫の加藤公市さん(65)=東京都中野区=が保管していた原稿を同館に寄贈したことを受けて企画。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いたことを踏まえ、展示コーナーに追加した。
 最も注目を集めているのは、映画化やドラマ化された「母のない子と子のない母と」の草案とみられる「十七八が二度候(そうろう)かよ」。B4サイズの原稿用紙33枚に記された物語で、登場人物や情景などに「母の―」と似通っている部分がある。「母の―」を出版した光文社(東京)の原稿用紙を使用している点からも草稿ではないかと考えられるが、記載日などが残っておらず詳細は分からないという。
 このほか、1956年1月から雑誌「平凡」に15回連載された「続私の花物語」のうち、第1回の「ダリヤ」と第6回の「さくら」の各8枚の原稿や、55年から婦人公論に連載された「草の実」、雑誌の休刊などの影響で連載が止まり未完となった「転々」のうち、1回目の「たんぽぽ」の原稿が展示されている。
 家族7人で同館を訪れた愛知県稲沢市の主婦、吉田昌子さん(74)は「一つ一つの文字から、平和や家族を大切にする壺井栄さんの優しい人柄が伝わってくるよう」と話していた。
 同館の入場は無料だが、映画村の入村料として中学生以上890円、小学生450円が必要。問い合わせは同館0879-82-5624(無休、開館時間は午前9時~午後5時)。

(四国新聞・2023/05/06掲載)


壺井栄文学館



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