明治初期から約150年にわたり、「張り子虎」を手作りしている田井民芸(香川県三豊市三野町)。同店工房では、張り子虎に親しんでもらおうと絵付け体験を行っている。トラの勇猛さにあやかり、男児の健やかな成長を願って端午の節句などで家庭で飾られてきた県の伝統的工芸品。オリジナルの張り子虎を作ってみようと絵筆を握った。


胡粉を塗った胴体の土台に、好きな色や模様を絵筆であしらう=香川県三豊市三野町、田井民芸

胡粉を塗った胴体の土台に、好きな色や模様を絵筆であしらう=香川県三豊市三野町、田井民芸


 張り子虎は室町時代に中国から伝わり、江戸期の手すき和紙の普及に伴い各地に広がったとされる。頭が振り子のように揺れるのは、威嚇しながら悪を探す様子を表しているとともに子どもの興味を引くためだという。近年は少子化や生活様式の変化などから、需要は減少傾向のようだ。
 絵付け体験は、同店5代目で県の伝統工芸士・田井艶子さん(75)らが古里に伝わる技を肌で感じてもらおうと、約25年前に地元中学校の授業で行ったのを皮切りに始まった。田井さんは「香川に伝わる文化を絶やさないためにも、まずは気軽に触れてもらうことが大切」と話す。
 張り子虎は、頭、胴、足、尻尾それぞれの木型に和紙を何重にも貼り重ね、木型から切り離した後に胡粉(ごふん)(カキの殻を砕いた粉)を塗装。乾燥後に絵付け、模様などをあしらうといった手順で制作する。貼り重ねる和紙は、江戸中期から明治初期までの木版印刷された書物から切り取って再利用。柔らかさとしなやかさを併せ持ち、凹凸のある木型にフィットしやすいそうで、見えない部分までにも素材の特長を生かす匠の技が垣間見えた。
 絵付け体験では、既に胡粉を塗りつけた真っ白な体長12センチの型に、用意されたアクリル絵の具とさまざまな太さの筆を使って思い思いのデザインに仕上げることができる。「色も顔も模様も全て自由。体験者の中には、“推し”のアイドルやキャラクターを描く方もいた」と田井さんが笑顔で教えてくれた。
 田井さんのアドバイスを受けながら早速筆を握り、乾燥に時間がかかる胴体から着色。明るい黄やオレンジ色を全体に塗り、赤や青色のドットをあしらう。力強いトラを目指し、アイラインを入れてぎょろりとした目に-。最初は緊張していたが、どんどん愛着が湧き、自分だけの世界に没頭してしまうほどだった。


完成したオリジナル張り子虎。頭が揺れる姿が愛らしい

完成したオリジナル張り子虎。頭が揺れる姿が愛らしい


 本来の張り子はニスを塗って仕上げるが、体験では少し乾燥させ、好みでひげを装飾するなどして完成。「ぜひお気に入りの場所に飾ってめでて」と田井さん。頭を揺らす張り子虎がうなずいているようにも見えた。
 参加費は2千円。問い合わせは同店、電話0875-72-4978。

(四国新聞・2023/05/13掲載)


田井民芸



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