名画を忠実に模写し主要人物だけを抜き取る「Without You」シリーズなどで知られる美術家、小川信治さんの作品を紹介する特別企画展「Better Half 回帰の手法」が、香川県高松市紺屋町の市美術館を主会場として開かれている。1980年代の初期作から最新作まで36点を展示。緻密な描写力を駆使し、鑑賞者に不思議な感覚を与える作家の世界観に触れることができる。18日まで。


緻密な描写力を駆使した作品に見入る来場者=香川県高松市紺屋町、市美術館


 小川さんは愛知県在住。公立中学の美術教諭を経て90年代に代表作「Without You」シリーズを発表した。以降、油彩画やアクリル画、ペン画といったさまざまなジャンルのシリーズに挑戦し、鑑賞者の想像をかき立てるような独自の手法を確立している。
 今展は同館2階展示ロビーと1階図書コーナー、高松丸亀町商店街の市美術館ブランチギャラリーで開催。2階に展示している油彩画「ブランコの絶好のチャンス」(2013年)は、18世紀後半に活躍したフラゴナールによる同名の作品から登場人物を“消去”。誰も乗っていないブランコが揺れ、豊かな自然の中で片方の赤い靴だけが投げ出されていることで、時が止まったような錯覚に陥る。
 このほか、欧州の古い絵はがきに描かれた人物や建築物のモチーフを組み合わせ、オリジナルのストーリーを表現したペン画などが並び、銅版画のようにも見える作家の圧倒的な技巧がうかがえる。
 図書コーナーでは教員時代に手がけた作品と併せ、制作時のヒントとなった幻想小説などの書籍を紹介。商店街のブランチギャラリーでは、同ギャラリー周辺から着想を得て今年書き下ろした大作を映像と共に展示しており、作家のジャンルを超えた活動の一端を物語っている。
 入場無料。問い合わせは高松市美術館、電話087-823-1711。

(四国新聞・2023/09/04掲載)



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