山全体が札所として信仰を集める小豆島霊場2番・碁石山(ごいしざん)(標高300メートル)。山の地形を利用した山岳霊場の一つで、白い凝灰岩と黒い溶岩石によって山肌が碁盤の目のように見えることからその名が付いたとされる。本堂では数百年以上にわたって護摩祈祷(ごまきとう)が行われ、本尊がある崖側では絶景が望めると聞いた。早速フェリーに乗り込み、同霊場堂守(どうもり)の大林慈空さん(47)の案内で、霊峰に伝わる長い歴史を学んだ。


浪切不動明王をまつっている山頂付近からは、小豆島町のまち並みと内海湾などが一望できる=小豆島町苗羽、碁石山

浪切不動明王をまつっている山頂付近からは、小豆島町のまち並みと内海湾などが一望できる=小豆島町苗羽、碁石山


 本坊の同霊場8番札所・常光寺(小豆島町苗羽)から車を走らせて10分ほどで境内に到着。安政6年の銘を刻んだ神仏習合の名残をとどめる鳥居をくぐり、100段近くある石段を一段一段上っていく。
 小豆島霊場は弘法大師空海が京の都へ上る際に立ち寄り、814(弘仁5)年に開創。江戸前期の1686(貞享3)年ごろに現在の体制が整ったと伝わる。山の斜面の石段には江戸期に造られたとされる四国霊場八十八カ所に見立てた石仏が並び、大林さんは「小豆島霊場は四国霊場と同時期に成立した兄弟のような関係」と教えてくれた。
 岩肌に沿うように参道を進むと、本尊の海上安全の仏様・浪切不動明王をまつる崖の行場(ぎょうば)に着いた。眼下には内海湾と播磨灘が広がり、海に向かって右側に同町のまち並み、左側には二十四の瞳映画村がある田浦半島を一望できる。高松市の方に目を向けると、屋島と五剣山の山並みが重なって「観音様があおむけに寝ているように見える」と大林さんが説明してくれた。
 興味深いのは、浪切不動明王の周りを念じながら1周すると願いがかなうといわれていること。険しい崖の上で鍛錬を重ねたかつての修行僧に思いをはせながら挑戦してみるのも醍醐味(だいごみ)だろう。


洞窟の中にある本堂。大林さんが毎朝護摩祈祷などを行っている

洞窟の中にある本堂。大林さんが毎朝護摩祈祷などを行っている


 石段を少し下り、次は岩窟の中にある本堂「碁石山鳳凰窟(ほうおうくつ)」へ。本堂は1700年代に全国を廻国(かいこく)巡礼していた下野国(栃木県)の一翁道夢(いちおうどうむ)が整備したと伝わり、洞窟の地形に合わせて造られている。周囲を見渡すと、500年以上続く護摩祈祷の炎によって天井の岩肌はすすで真っ黒になっているのが分かる。
 岩の間から差し込むわずかな光と、人工音がほとんど消えた環境の中で大林さんの読経だけが響き、まるで俗世と切り離されたような感覚に陥る。歩き遍路の魅力も伝えている大林さんは「ほかの神社仏閣では味わえない山岳霊場ならではの祈りの文化が残っている。ぜひ歩いて訪れてほしい」と語る。この秋は、小豆島の豊かな自然を感じながら、空海の足跡をたどる旅に出かけるのはどうだろう。

(四国新聞・2023/10/28掲載)



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