香川漆芸を代表していた作家で、昨年死去した蒟醤(きんま)の重要無形文化財保持者(人間国宝)磯井正美さんの功績をしのぶ展覧会「蒟醤の軌跡をたどる」が、香川県高松市番町の香川県文化会館で開かれている。30代から90代にかけての作品や愛用の道具などが並び、独自の表現を模索してきた漆芸人生を後世に伝えている。28日まで。


高松一高の創立70周年に合わせて制作した「蒟醤証書盆 花月雪 壱組(花)」


 磯井さんは父親で讃岐漆芸の中興の祖と称される磯井如真に師事。父が創案した点彫りを応用し往復彫りを編み出したほか、面全体を彫ってにじみやぼかしを表すなど蒟醤の表現領域を広げた。日本伝統工芸展で入賞を重ね、香川県漆芸研究所の講師として55年にわたって後進の育成に当たった。
 会場では代表作の「蒟醤むらさき箱」をはじめ、30代以降の作品を年代順に展示。このうち母校の高松一高創立70周年に合わせて制作した「蒟醤証書盆 花月雪」は、同校の校歌に歌われる情景を「花」「月」「雪」の3枚組みに仕立てた。桜の舞う屋島の風景や月明かりに照らされた玉藻城などを、往復彫りを用いてノスタルジックに写し出している。
 愛用の道具は初公開。緩やかにカーブした木製の定規は、器の曲面を彫る前の基準線を引くためのもの。磯井さんは作品ごとに定規も作ったそうで、妥協せず制作に向き合った作家としての姿勢がうかがえる。
 18歳で海軍に配属され、戦中、戦後の日本を見つめてきた磯井さん。出展作の中には戦闘機など戦争をモチーフとしたものが見られる一方、東京行きの飛行機から眺めた富士山や、梅酒の味わいを表した盆など平和や豊かさがにじむ作品もある。香川県漆芸研究所は「作家としての歩みが戦後復興の歴史と重なる。世の中が発展していく中で従来にない表現を模索してきた磯井先生の足跡に思いをはせてほしい」としている。
 入場無料。問い合わせは香川県漆芸研究所、電話087-831-1814。



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