香川県東かがわ市松原の白鳥神社に隣接する県指定有形文化財「猪熊家住宅」(通称猪熊邸)は、1664(寛文4)年に同神社再興に伴い京都から招かれた神官・猪熊兼古(かねふる)の住宅として整備された。兼古が讃岐を訪れて今年で360年。節目の年に改めて同市の歩みをたどろうと、猪熊邸と同市引田の市歴史民俗資料館に足を運んだ。


江戸時代に整備された数少ない神主の住宅「猪熊邸」=香川県東かがわ市松原

江戸時代に整備された数少ない神主の住宅「猪熊邸」=香川県東かがわ市松原


 母屋や長屋など3棟からなる猪熊邸は漆喰(しっくい)を施した美しい白壁と門構えが威容を物語り、同市出身の歌手で俳優の笠置シヅ子(1914~85年)がモデルのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の県内ロケ地にも選ばれた。70~2003年に一般公開されたが、現在は安全面などを考慮して内部は非公開となっている。
 兼古は平安初期から都を守護した京都市の平野神社を代々預かる神道の生まれで、国学者としても知られた。高松藩初代藩主・松平頼重が白鳥神社の神官として招き、当時敷地面積約1万平方メートル、部屋数約70室の猪熊邸を与えたと伝わり、猪熊家への手厚いもてなしがうかがえる。屋敷は小大名の住居形式「陣屋(じんや)造り」をとっており、幕府に神社の領地として認められた朱印地の役所機能を兼ね備えていたという。
 家系は72代を数え、現当主で市職員の猪熊全徳(よしのり)さん(37)は「邸宅には頼重の弟・徳川光圀(水戸黄門)の手紙や嫁入りかご、狩野永納が描いたとされる杉戸絵などが多く残されている。再び公開できることを願って大切に保管したい」と話していた。
 猪熊邸を後にして車で15分ほどで同市歴史民俗資料館に到着。同館専門職員の橋本康男さんに案内してもらった。1995(平成7)年の旧引田町時代に開館した資料館は、2003年の合併による東かがわ市発足に伴い旧引田地区に加えて白鳥、大内地区ゆかりの史料を拡充。個人や公的機関から寄贈を受けるなどした約1万5千点を収蔵している。


明治~昭和期に使われた醤油造りの道具=東かがわ市歴史民俗資料館

明治~昭和期に使われた醤油造りの道具=東かがわ市歴史民俗資料館


 常設展では古代・中世から現代までの遺跡や生活用品、農具などを年代順に紹介。入り口正面には旧引田町で初めて発掘された川北1号墳の横穴式石室の原寸大レプリカ(奥行き4・8メートル)があり、中を探検できるのが特徴だ。会場には江戸~明治期に栄えた砂糖や醤油(しょうゆ)造りの道具をはじめ、ハマチ養殖発祥の地・安戸池の写真パネルや、市特産である手袋作りの道具が一堂にそろい、同市の産業の歩みを網羅している。
 会場の一角にはシヅ子が旧相生小の児童に送った手紙や娘と一緒の写真を取り上げたコーナーもあり、「ブギの女王」として戦後日本を盛り上げたシヅ子が古里に寄せていた思いに触れることができる。橋本さんは「本年度に市制施行20周年を迎えた東かがわ市の変遷を知るきっかけになれば」と話している。

(四国新聞・2024/01/13掲載)

猪熊家住宅


東かがわ市歴史民俗資料館



東かがわ市歴史民俗資料館


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