香川県丸亀市の北方に浮かぶ塩飽諸島最大の広島は、古くから青みがある花崗(かこう)岩「青木石」の産地として栄えた。今年は瀬戸内海国立公園指定90周年。穏やかな気候に恵まれた春の島路を巡り、「石の島」の新たな魅力を探った。


日本遺産「石の島」の構成文化財「尾上邸」=香川県丸亀市広島町

日本遺産「石の島」の構成文化財「尾上邸」=香川県丸亀市広島町


 丸亀港から高速艇で約20分。広島・江の浦港に降りると、今年1月にリニューアルしたばかりの待合所が目に入る。土日限定で手作りピザを提供するカフェが併設されており、島で捕獲したイノシシ肉を使ったピザも人気。広島在住でカフェの責任者・佐々原悠馬さん(22)は「島内では30年ぶりの飲食店。島を訪れるきっかけとともに、多くの人が集う憩いの場になれば」と話してくれた。
 丸亀市によると、島内巡り初心者は待合所にあるレンタサイクルを利用し、アップダウンの少ない江の浦から立石地区を周るのがお薦め。同地区にある日本遺産「石の島」の構成文化財の一つ「尾上( おのえ )邸」までは自転車で15分ほどだ。
 尾上邸は江戸時代に回船問屋として財を成した尾上家の邸宅。大阪城の築城にも使用されたという青木石を用いた石垣の上に建てられており、城のような威容に思わず圧倒された。邸宅は総ケヤキ造りで、優れた操船術で名をはせた塩飽水軍から造船の技を受け継いだ「塩飽大工」の技術が随所に施されている。
 長年空き家となっていたが、この由緒ある邸宅を活用して少子高齢化が進む島を盛り上げようと、地元有志らが「讃岐広島・小手島・手島活性化協議会」(白賀誠治会長)を発足。国の農泊推進事業を活用して、2021年夏に島暮らしを体感できる宿泊交流施設にリノベーションした。


尾上邸の茶室を紹介する白賀さん(左)と佐々原さん

尾上邸の茶室を紹介する白賀さん(左)と佐々原さん


 約350坪ある邸宅は母屋と別館の茶室で構成。母屋の中心部には、北前船で運ばれたとされる「大樋(おおひ)焼」(石川県)の茶碗などを展示しており、全国の海運に携わっていた尾上家の歴史が垣間見える。窓の開閉には、船の帆を巻き上げる滑車の原理が使われているのもおもしろい。土間の台所にはまきで炊く現役のかまどがあり、宿泊者は地元住民らとの料理体験も可能だという。
 別館の茶室の眼下には田畑が広がり、遠くに牛島や瀬戸大橋が望める。佐々原さんは「この穏やかな風景も島を離れられない理由の一つ。住民の温かい人柄に触れながら、島時間を楽しんでほしい」と笑顔を見せていた。
 丸亀市は本年度から毎月20日、丸亀港などと塩飽諸島を結ぶ3つの航路を「運賃無料デー」としている。飲食物を持参し、家族連れなどで島巡りに挑戦するのも一興だ。
 尾上邸の見学料は1人500円(事前予約が必要)。問い合わせはNPO法人石の里広島、電話0877-29-2332。

(四国新聞・2024/04/13掲載)



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