香川県高松市の峰山公園近くにたたずむ図書館「峰山往来文庫」の取り組みが徐々に注目を集めている。柔らかい木漏れ日に包まれた環境で、約700冊の蔵書の中から特別な一冊との出合いが楽しめる趣向。インターネット上に情報があふれる現代、利用者に紙から情報を得ることの大切さに改めて気付いてもらおうという試みだ。

 図書館を運営するのは建築設計士の長田慶太さん(48)=同市宮脇町=。廃屋になっていた2階建ての物件を買い取り改修、昨年10月に、この建物の2階にオープンした。入館料を払えばその日の閉館時間まで利用できる仕組みで、3冊までなら1階にオープンしたレストランや隣の峰山公園に持ち出し可能。木のぬくもりあふれる館内は窓から自然光が差し、今なら公園のみずみずしい新緑の中でも読書が楽しめる。


「紙の本からは思わぬ情報が得られることがある」と話す長田さん=高松市峰山町


 「今や情報収集の手段はネットのみという人は少なくない。紙の本からは思わぬ情報が得られることがあり、偶然の出合いを楽しんで」と長田さん。蔵書は日本の文学作品や絵本、仏像の写真集、アートの本など珍しいラインアップとなっており、中には宇宙人に関する本もある。これらは高松市の古本屋など4店舗が「峰山の環境下で読んでほしい本」をテーマに選書した書籍で、長田さんの蔵書も並ぶ。
 構想のきっかけは新型コロナウイルス禍で画面越しの対話が増えた現象。それが当たり前になることで、ネットの情報に疑いを持たなくなる人が増えるのでは、と危惧した。「スマートフォンなどの画面が発するのは直接光。一方、本の情報は周囲の光が紙に反射して間接光として脳に届く。間接光の方が情報をより客観視できるという説もあり、その違いを体感してほしい」と思いを明かす。


自然の中にたたずむ峰山往来文庫


 今後は蔵書をさらに増やす予定。最近は往来文庫に魅了された人たちが紙芝居やワークショップを開くなど、図書館以外の取り組みも広がっている。「『往来』には古本や光の行き来という意味に加え、人が集まる場という意味も込めた。本だけではない新たなつながりが生まれるスポットになれば」
 入館料は100円(ドリンク付き500円)。水、木、金曜日定休。電話、087-834-3489。

(四国新聞・2024/05/10掲載)


峰山往来文庫(Instagram)



関連情報