讃岐醤油画資料館 香川県坂出市本町 歴史塗り替えるパロディー 日本美術の名作、模写20点
「讃岐醤油(しょうゆ)画資料館」は鎌田醤油(香川県坂出市本町)の敷地内にある。館内には雪舟や岸田劉生らが醤油で描いたという「醤油画」が展示されているが、これらは全て現代美術家が作り上げたパロディー。歴史ある老舗店になぜ? 遊び心あふれる芸術空間にお邪魔した。
JR坂出駅から徒歩10分。同資料館は1999年にオープン。江戸末期に建築され近世商家の趣を残す旧鎌田醤油本店内に作られ、県の登録有形文化財である建物の重厚な梁(はり)や大黒柱は見応え十分だ。
同館の矢野正子さん(74)の案内で、商店街側にある大門から資料館に入る。醤油の香りがふわりと漂ってきた。最初に目に飛び込んできたのは、草間彌生やイサム・ノグチらの造形作品を模倣して茶色く染めた作品が並ぶ「現代室」。そこからは近代、中世、古代の順に、南蛮びょうぶや洋画家・高橋由一、東郷青児らの名画の模写約20点が展示されている。
「この資料館自体がパラレルワールドでインスタレーションなんです」と矢野さん。紙がセピア色に染まったり、線が薄く見えにくくなっていたりと、長い歴史を刻んだかのように感じさせる凝りようだ。中世室には、「弘法大師15世の弟子にあたる」僧侶のマネキンには「写経の時間に醤油画ばかり描いていたので破門されたと伝えられており…」というキャプションが添えられており、思わず笑ってしまった。
作者は東京都出身の現代美術作家・小沢剛さん。瀬戸内国際芸術祭の出品作家で、現在は東京芸術大教授を務めている。醤油画は小沢さんが生み出し、弘法大師の時代から日本美術史の巨匠たちがひそかに受け継いできた、という架空のコンセプトで制作したという。
「福岡アジア美術トリエンナーレ」(1999年)にインスタレーション作品「醤油画資料館」を出品したところ、たまたま鑑賞した先代の故鎌田郁雄社長が「醤油屋こそ応援しなくては」とほれこみ、香川向けの制作を依頼したのが同館の誕生につながった。
ユーモアたっぷりの醤油画を鑑賞した後は、絵画用に加工した醤油で絵を描く体験もできる。太筆と細筆、醤油、水、はがきが用意され、水墨画のように濃淡を楽しみながら自由に描ける。老舗醤油店の真面目なパロディーは、くすっと笑える思い出の一つになりそうだ。ぜひ体感してみてはいかがだろう。
開館時間は金、土、日の午前9時から午後4時まで。入場料は200円、醤油画体験は100円。問い合わせは鎌田醤油、電話0877-45-1111。
(四国新聞・2024/09/28掲載)