香川の映画の祭典「さぬき映画祭2025」(同実行委、県など主催)が8、9の両日、高松市玉藻町のレクザムホールなど3会場で開かれる。19回目となる今回も、同映画祭シナリオコンクール大賞受賞作の映像化作品をはじめ、県内ロケや地元ゆかりの映画人らが関わる作品を上映。映画をさらに深く味わうゲストトークなどのプログラムも豊富に用意されている。



「潮待ち模様」2022年度シナリオコンクール大賞作品 さぬき市舞台に人間模様描く

 オープニングを飾るのは今回初公開となる「潮待ち模様」。2022年度のさぬき映画祭シナリオコンクールで大賞に輝いた、さぬき市出身の映像クリエーター・三好冬馬さん(59)=ペンネーム、高松市在住=の脚本を映像化した作品。さぬき市を舞台に、主人公の漁師の高齢男性と幼なじみの女性らが織りなす「ヒューマンラブストーリー」となっている。
 舞台は同市津田町の津田漁港。1960年代まで遠洋漁業で栄えていたが、時代の流れと共にまちは寂れてしまった。それでもかたくなに漁師を続けてきた主人公には、幼い頃から思いを寄せ続けてきた幼なじみの女性がいる。仕事を失い同町で漁業を学ぼうと考えている青年や、インドネシアから来た技能実習生の少女も登場し、4人を中心にストーリーが展開する。
 恋模様だけでなく、後継者不足など漁業が抱える課題や血縁を超えた人間同士のつながりも描き出した。
 上映後は監督・脚本を手がけた三好さん、主人公を演じた公庄庸三さん、幼なじみの女性役の安冨美智代さんらのトークがある。


「潮待ち模様」のワンシーン(ナカムラユウスケさん撮影)Ⓒ映画「潮待ち模様」製作委員会


監督・脚本の三好さんインタビュー 経験と緻密な取材生かす

 監督・脚本だけでなく編集や演出なども手がけた三好冬馬さんは元俳優。細部までその経験を本作に落とし込んだという。制作の裏側などについて聞いた。
 ―舞台はさぬき市。
 津田港で開かれた、海産品の販売などがあるイベントに立ち寄った際、にぎわいが失われ、まちが寂れつつあることを実感した。舞台にすることでロケ地巡りをしてもらうきっかけにしたかった。
 ―撮影の大半は地元で行ったと。
 とにかくさぬきの風景の美しさを伝えたかった。突然の依頼にもかかわらず、1週間で100人のエキストラが集まったこともあり、地元と一緒に作り上げた映画だと思っている。
 ―登場人物に「味」がある。
 高齢の男女、職を失って津田港にたどり着いた青年とインドネシア人の技能実習生の少女、というひと味違った2組の男女を中心に物語が広がってゆく。特に、70年近く幼なじみの女性を思い続け、独身を貫いてきた主人公は、もはやファンタジーな存在だ。
 ―見どころは。
 漁師の友人に取材して脚本を執筆、作中では漁業が直面する課題も織り交ぜた。また、バックグラウンドの異なる人物たちがつながっていく姿を通して「自分のことを思ってくれる人がいれば、それは家族なんだ。血縁は関係ない」というメッセージも込めた。背景には自分の経験がある。
 ―作品への思いを。
 映画を撮るために蓄積したノウハウを生かして制作した。本作をきっかけに、一人でも多くの人がさぬき市に足を運んでくれれば。

「からかい上手の高木さん」2本 島の風景 ともに美しく

アニメ

 とある中学校、隣の席になった女の子・高木さんに、何かとからかわれる男の子・西片。どうにかして高木さんをからかい返そうと日々奮闘する西片だが、いつも高木さんに見透かされてしまう―。そんな二人の日々を描いた「からかい上手の高木さん」。劇場版では、少しずつ大人の階段をのぼり始める中学3年の夏の、二人の青春模様が丁寧に描かれる。
 原作は、土庄町出身の漫画家・山本崇一朗による同名コミック。シリーズ累計発行部数1100万部、2018年から放送されたテレビアニメも好評を博した。
 赤城博昭監督自ら現地入りしてロケハンしたという中山千枚田、西光寺、鹿島海水浴場など小豆島の風景が美しく盛り込まれている。

実写版

 からかう高木さん、からかわれる西片…。そんな関係がずっと続くと思っていたが、高木さんが島を離れることになり、離ればなれになった二人。そこから10年の月日が経った頃、島で二人が再会するところから物語が始まる。
 母校の教育実習生として島へ帰ってきた「高木さん」を演じるのは永野芽郁。体育教師として奮闘する「西片」を初共演の高橋文哉が演じた。
 メガホンを取るのは、『愛がなんだ』『アンダーカレント』など、新世代の恋愛映画の名手として名高い今泉力哉監督。23年夏にオール小豆島ロケを行い、土庄中、土渕海峡、池田の桟敷など小豆島の名所を取り入れ、高木さんと西片の愛おしい時間を、圧倒的な映像美で紡ぐ。

香川ゆかり 注目の2本

「黒の牛」地元ロケが生む映像美

 日本、台湾、アメリカの合同制作。明治期の徳島県西部を舞台に、かつて同県と香川にあった風習「借耕牛(かりこうし)」を題材に、1人の男と1頭の牛が過ごす日々を描く。急速に変わりゆく時代の中で、自然とのつながりを見失った狩猟民の男は自分の分身とも言える牛と出会う。農民となり、牛と共に大地を耕す姿から、圧倒的な映像美で真の豊かさとは何かを問いかける。
 監督は徳島県三好市出身の蔦哲一朗。主演は台湾の俳優、李康生(リーカンション)が務めた。世界的ダンサーで俳優の田中泯(みん)が禅僧を演じ、生前参加を表明していた坂本龍一の楽曲を使用している。第37回東京国際映画祭「アジアの未来」部門出品。114分。

 【監督から一言】
 22年6月に三豊市と観音寺市で撮影をさせていただき、三豊市では80人を超える方々がエキストラとして、明治時代の着物で参加してくださいました。地元の皆様の温かいご協力のおかげで完成することができました。香川県と徳島県の風習「カリコ牛」を通して、仏教的な無に至る本作をさぬき映画祭で上映できることが大変楽しみです。当日は私も登壇いたしますので、会場でお会いしましょう。

「侍タイムスリッパー」自主映画が異例のヒット

 幕末、宿敵・長州藩士を討とうとした会津藩士、高坂新左衛門は落雷に打たれ、現代の時代劇撮影所にタイムスリップ。江戸幕府がとうの昔に滅んだと知りがく然とするが、「我が身を立てられるのはこれのみ」と磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門をたたく。
 安田淳一監督=京都府=は14年に「拳銃と目玉焼」で監督デビュー。18年度の「さぬき映画祭 ショートムービーコンペティション」において、「善通寺的な恋の始まりの物語」でグランプリを獲得している。23年には実家の米農家を継ぎ、農家との兼業映画監督としても異色の存在感を放つ。
 今作では私費をつぎこんで時代劇に挑戦。10人たらずのロケ隊が時代劇の本家、東映京都で撮影を敢行した。
 24年8月の封切り後、SNSなどで評判が広がり全国上映。インディーズ映画では「カメラを止めるな!」以来の大躍進といわれ、優れた新人監督に贈られる「新藤兼人賞」銀賞に輝いた。

(四国新聞・2025/02/07掲載)


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