洋画家として知られる猪熊弦一郎(1902~93年)。画業以外の足跡に焦点を当てた企画展が、香川県丸亀市浜町の市猪熊弦一郎現代美術館で開かれている。約100点の資料を通じ、建築への造詣の深さや世界的芸術家との交流など、あまり知られていない一面をひもとく。7月6日まで。


高松美術館を再現した模型=香川県丸亀市浜町、市猪熊弦一郎現代美術館

高松美術館を再現した模型=香川県丸亀市浜町、市猪熊弦一郎現代美術館


 70年にわたる画業の中で、パリや米ニューヨークに拠点を置き、画風を変化せさてきた猪熊。一方で自身が中心となって「新制作派協会建築部」を立ち上げ、建築家らとの協働に取り組んだほか、三越の包装紙に代表されるデザインの仕事やパブリックアートも手がけた。ニューヨーク時代にはイサム・ノグチら世界的な芸術家と交流するなど、画業の枠を超えて活動した。
 今回は大阪・関西万博の開催を機に、国内外の人に猪熊について知ってもらおうと企画。「猪熊弦一郎博覧会」と題して、写真や書簡など豊富な資料で構成している。
 冒頭では、1949年に栗林公園(高松市)内に開館した「高松美術館」を取り上げた。同館の設計者として、猪熊が新制作派協会建築部のメンバー山口文象を推薦し、当時の国内では珍しいホワイトキューブ(白い立方体の空間)の美術館が誕生した。会場では山口の設計図を基にしたミニチュア模型を展示しており、往時の姿をつぶさに見ることができる。
 さらに、国の重要文化財に指定された県庁東館(丹下健三設計)について、猪熊が金子正則知事に新進気鋭の丹下を紹介したエピソードに触れる。担当学芸員は「猪熊が金子知事に優れた建築の大切さを説き、芸術家との縁をつないだことでその考えが県に根付いた。それが数々の名建築の誕生や瀬戸内国際芸術祭の開催など、現在のアート県の基盤となった」と説明する。
 県庁東館の建築に当たって、猪熊が金子知事や丹下らと交わした手紙も展示しており、猪熊が空間美について考え抜いていたことが読み取れる。学芸員は「猪熊にとって建築は衣食住の一つで、癒やしや活力を与える重要なものと捉えていた。こうした幅広い活動を知ることで、猪熊への理解を深めてもらえれば」と話している。
 入場料は一般1500円ほか。問い合わせは丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、電話0877-24-7755。

(四国新聞・2025/06/13掲載)


MIMOCA 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館



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