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瀬戸内国際芸術祭2025夏会期開幕 引田 紡ぐ、まちの記憶と愛
KASAYAソーシャル/パフォーマンス・スペース+アートワーク モニカ・ナルラ(ラックス・メディア・コレクティブ)
かつてしょうゆや酒の醸造などで栄えた引田。そこで元は酒蔵だった笠屋邸を会場に作品を公開する。コンセプトは時間、発酵、歴史。目には見えないものを表現したのが「KASAYAソーシャル/パフォーマンス・スペース+アートワーク」だ。
日本酒造りもしょうゆ造りも「発酵」というプロセスが共通項となっている。日本酒を製造していた桶(おけ)やしょうゆを貯蔵するための桶を床材の一部として活用し、それらに宿る記憶を手がかりにインスパイアされた映像を投影するのが特徴となっている。
来場者には、庭をゆっくり歩いて味わうように時間を割いて、映像が変化する過程を楽しんでほしい。驚きと喜びの感情を抱いてもらえると同時に、目に見えないものの美しさを体感してもらえると思う。
笠屋邸を会場とすることが決まった際に、残り2人のメンバーと、「恒久的な作品」にすると決めた。まちの景色の中に酒蔵が溶け込んでいた往事のように、この作品が人々の生活の一部として残っていってくれたらうれしい。
そのためにも、地域コミュニティーを形成する人たちが日常的に集まる場として、あるいは、パフォーマンスを披露する場、本棚と書籍を置いて誰もが利用できる場として活用してもらえたら本望だ。
みんなの手袋 月まで届く手袋を編もう! レオニート・チシコフ
てぶくろの童話 マリーナ・モスクヴィナ
東かがわ手袋ギャラリーで展開する作品は全て手袋産業の礎を築いた棚次辰吉(たなつぐたつきち)(1874~1958年)と結び付いている。複数のインスタレーションと手袋を題材とした物語―。建物が持つ歴史と作品の雰囲気が見事に組み合わさったと感じている。
うな手袋は、地域住民らに古着を持ち寄ってもらい、地域住民らの手で編んでもらった。古着には人の人生や思い出が詰まっているからだ。
その古着を裂いて紡いだ糸は人々の「記憶」であり「愛」でもある。作品最下部に毛糸玉のような“古着玉”で表現した曼荼羅(まんだら)をはじめ、作品全体を通して世界に向けた温かな思いが来場者に伝わればとてもうれしい。
手袋の童話の方もテーマは「愛」。この物語は辰吉が一双と一枚の手袋を作るところから始まる。対にならなかった手袋が世界を冒険しながら、さまざまな愛に触れ、最終的には宇宙を目指すストーリーとなっている。
まるでおとぎ話の世界に入ってきたような、手袋の歴史に浸れるようなこの空間。東かがわの手袋産業の足跡に思いをはせるとともに、来場者が慈悲の気持ちを抱くような場所になればと願っている。
待ってます!
ストレッチ編み師範、編み物教室講師 十河多恵子さん(74)
レオニート・チシコフさんの作品「みんなの手 月まで届く手袋を編もう!」の制作に携わってきました。東かがわ市としては初の瀬戸芸への参加。脈々と紡がれてきた手袋産業などの歴史や文化が注目され、地域ににぎわいが生まれることを願うばかりです。引田は古い町並みや豊かな海、緑深い山など魅力が多い場所。温かい地元住民や地域の食との出会いも楽しんでほしいです。
(四国新聞・2025/08/01掲載)