瀬戸内国際芸術祭2025の「最終章」となる秋会期が3日開幕した。初参加の宇多津エリアや本島(香川県丸亀市)、高見島(香川県仲多度郡多度津町)、粟島(香川県三豊市)、伊吹島(香川県観音寺市)が加わった。県内は時折雨が降るぐずついた天候だったが、県内外から訪れた観光客や家族連れらは、その土地に溶け込んだアートを鑑賞したり、地域に根付く文化や歴史に触れたりし、終日、明るい声を響かせた。

粟島エリア 船乗りの島、歴史映す


タオリグ・サリナさんの「航海する記憶の船―ノマドギャラリーin粟島」。住民も制作をサポートして100羽以上のカモメが飛び立つ様子を表現した=香川県三豊市粟島

タオリグ・サリナさんの「航海する記憶の船―ノマドギャラリーin粟島」。住民も制作をサポートして100羽以上のカモメが飛び立つ様子を表現した=香川県三豊市粟島


 粟島港の案内所では、スタッフだけでなく住民も笑顔で来場者を出迎えた。展示エリアでは「船乗りの島」の歴史を映し出した斬新なアートが目を引いている。
 旧中学校を活用した「粟島芸術家村」では、100羽以上のカモメが飛び立つ様子を表現した空間作品がお目見え。住民が竹を切り出すなど3カ月ほどかけて完成した労作といい、友人と鑑賞していた坂出市の主婦(38)は「すごくダイナミックな作風で、住民の心意気にも感動した」と話した。
 高台にある旧小学校の運動場では、灯台をイメージした高さ約10メートルの大作に歓声が上がった。来場者は写真を撮ったり景色を眺めたりして楽しんでいた。

初参加・ 宇多津エリア 「塩」テーマに作品展開

 瀬戸芸初参加の宇多津エリアでは、かつて製塩業で栄えた町の歴史にちなみ、「塩」をテーマにした作品が展開されており、来場者の注目を集めた。
 近代和風建築「倉の館三角邸」では、山本基(もとい)さんのインスタレーション「時を紡ぐ」を展示。床一面に青い板を敷き、塩で無数の泡や潮の流れのような模様を描いており、大阪市から訪れたフォトグラファー(26)は「波や雲のように見える。展示後の塩は海に戻すと聞き、自然へのリスペクトを感じて、とても胸に響いた」と作品にカメラを向けていた。
 この日は同エリアのオープニング記念式典が四国水族館であり、関係者ら約100人が参加して、作品紹介や宇多津中学校吹奏楽部の演奏などが行われた。

高見島エリア 木や門に作品見つけ歓声

 高見島では民家や島のあちこちにある石垣を使った「展示場」があり、木の枝や門の上にひっそり置かれた作品を発見した来場者は歓声を上げていた。
 作家が島内の家から見える海の景色を撮影しポストカードとして展示する会場も。無料で土産として持ち帰れるとあって来場者はじっくり吟味していた。高松市の会社員(50)は「迷ったが、瀬戸芸らしいので瀬戸大橋が写ったものを選んだ」とにっこり。
 外来種の雑草を使用したカレーの提供も人気。実際に食べた来場者は「雑草が入っているなんて気付かなかった」と驚いた様子。高見島応援団「さざえ隊」の手作り品などが並ぶギャラリーもにぎわった。

本島エリア アートと趣ある街並みも


コタケマンさんの作品「うみのえまつり」の前に立って撮影する来場者=香川県丸亀市本島町、旧本島中

コタケマンさんの作品「うみのえまつり」の前に立って撮影する来場者=香川県丸亀市本島町、旧本島中


 本島の笠島地区では開幕に合わせ、コーヒーショップなどがオープン。通りすがりの住民が、訪れた家族連れらに「おいしいから寄ってみて」と声を掛ける姿もあり、笑顔で交流を深めていた。
 来場者は作品に加え、趣ある街並みも満喫。NPO法人「本島町笠島まち並保存協力会」の三宅邦夫会長(76)は「地域で守り抜いてきたこの風景も心に留めてもらいたい」と語った。
 泊地区ではコタケマンさんの「うみのえまつり」などが公開され、岡山県倉敷市の会社員(53)は「作品の迫力に圧倒された。瀬戸芸には毎回足を運んでいる。アートをきっかけに地域のことを知れるのが魅力だと思う」と話した。

(四国新聞・2025/10/04掲載)


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