香川県高松市の漆芸家山下義人の制作の歩みをたどる特別展「蒟醤(きんま) 山下義人展」(四国新聞社共催)が、11日から市美術館(同市紺屋町)で開かれる。初期から近作まで代表作が一堂に集まる作家初の大規模個展。蒟醤と蒔絵(まきえ)で彩られた色彩美と詩情豊かな世界に迫る。11月24日まで。


「山笑う 蒟醤箱」2011年(撮影:高橋章)

「山笑う 蒟醤箱」2011年(撮影:高橋章)


 山下は高松工芸高校を経て県漆芸研究所を修了。重要無形文化財保持者(人間国宝)の磯井正美(蒟醤)と田口善国(蒔絵)に学んだ。蒟醤と蒔絵を組み合わせることで漆の表現の幅を広げ、2013年に蒟醤の人間国宝に認定された。金刀比羅宮本宮の天井を彩る「桜樹木地(おうじゅきじ)蒔絵」の復元制作も監修するなど幅広く活躍し、県漆芸研究所と石川県の輪島漆芸技術研修所で後進の指導に当たっている。
 今展は日本伝統工芸展と日本伝統漆芸展の出品作を中心に81点を展示。箱物をはじめ、棚や杖、高坏などバリエーション豊かな作品を紹介する。
 山下の技法の特徴は面全体を彫って色漆を埋める「面彫り」。数十色の色漆を塗り重ねることで緻密なグラデーションを生み出している。日本伝統工芸展で日本工芸会保持者賞を受賞した「山笑う 蒟醤箱」(2011年)は、黄色や緑色の漆を35回塗り重ね、木々が徐々に芽吹いていく里山の春を箱全体で表現した。


「水の音 蒟醤蒔絵食籠」1994年(image:TNM image Archives)

「水の音 蒟醤蒔絵食籠」1994年(image:TNM image Archives)


 1994年の同展入賞作「水の音 蒟醤蒔絵食籠」は水面に浮かぶ色鮮やかなツバキを表現した意欲作。ツバキの蒔絵を中心に蒟醤で水紋をあしらっており、二つの技法の組み合わせによって日本伝統工芸展で注目を集めるきっかけになったという。
 ほかにも鳥取砂丘や茶畑、サンゴ礁といったモチーフが見られ、自然を見つめる山下のまなざしを感じることができる。
 入場料は一般800円ほか。問い合わせは高松市美術館、電話087-823-1711。

(四国新聞・2025/10/09掲載)


高松市美術館



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