民俗学の歩み、後世へ 柳田国男の書簡を展示 瀬戸内歴民 弟子の遺族が寄贈
日本民俗学の祖、柳田国男(1875~1962年)が、香川民俗学の第一人者で多度津町長も務めた武田明(1913~1992年)に宛てた直筆はがきなど約30点が、香川県高松市亀水町の瀬戸内海歴史民俗資料館に寄贈された。はがきは柳田と武田の師弟関係がうかがえる内容で、同資料館は「香川の民俗学の歩みを考える上でも一級の資料。展示や研究に活用したい」としている。
武田は戦前、東京で柳田の下で民俗学を学んだ。戦中に帰郷し、讃岐民俗研究会(現香川民俗学会)を創設。高松高等女学校などで教壇に立つ傍ら、主に書簡を通して柳田から指導を受けた。戦後の1947年に多度津町長に当選し51年に退任。以降、78歳で亡くなるまで民俗学の調査研究に尽力し、中四国の民間説話の聞き取りで高い評価を得ている。
寄贈したのは武田の長男・総一郎氏(70)=多度津町=。総一郎氏は、父・武田の死後、95年にも遺稿や民俗学に関する資料、柳田とやりとりした書簡の一部など2164点を同資料館に寄贈したが、「書簡の多くは供養のため自宅に残していた」という。今回は「今年33回忌を終え、保管していた書簡や柳田氏直筆の原稿を中心に全て託すことにした」と明かす。
今回寄贈した柳田のはがきは、武田が町長に就任した直後のものとみられ、武田が民俗学から離れることを危ぐし、「世のために学業をおすてにならぬよう願い上げ候」と記されている。総一郎氏は「柳田氏が厳しくも弟子を気遣っていることが見て取れる。柳田氏を知る上で非常に興味深い内容」と説明し「柳田氏を師に持ったことを何よりも喜びとしていた父にとって、このはがきは一番の心のよりどころだった」と振り返る。
柳田は全国の弟子に依頼して各地の民俗調査を行ったとされ、同館は「武田氏の研究者としての器を評価し、学問から離れることを惜しんだのだろう」と分析する。総一郎氏は「民俗学黎明(れいめい)期の学者が柳田氏からどんな指導を受けていたかや、その関係性を知る手がかりにしてほしい」と話している。
同館では、柳田のはがき1点に加え、併せて寄贈された民俗学者・折口信夫と渋沢栄一の孫・渋沢敬三の資料計4点を展示している。期間は2025年2月24日まで(12月16日~1月3日は休館)。
(四国新聞・2024/12/13掲載)